原作 |
ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』 |
監督 |
フェルナンド・メイレレス |
脚本 |
ドン・マッケラー |
キャスト |
|
配給会社 |
- |
|
誰も見ていないところでも、我々人間は良識を保つことができるだろうか。そうに決まっている…自身が良識あふれる人間だと自覚している人は言うかもしれない。だが、本当にそうだろうか? 自分の身に危険が迫っているときにでも、自分の命よりもモラルを重んじることができる人間がどれだけいるだろうか。
交差点で立ち往生する1台の車。心配そうに声をかける人の声にドライバー(伊勢谷友介)はこう答える。「目が見えない」と。それがすべての始まりだった。彼を皮切りに、全人類が次々と原因不明の失明に襲われていく。通常の失明と違うことは、失明者の視界は暗闇ではなく、真っ白になることだった。そんな中ただ1人、視力を失わない女(ジュリアン・ムーア)が無秩序に陥った世界に立ち向かうが…。
本作はある意味、密室劇に近い。『ミスト』で極限に陥った人間たちが醜い姿を晒したように、盲目に陥った人間は自分の世界だけに閉じこもり、やはり醜態を晒す。我々が日々滞りなくある一定の水準以上の社会生活を送れるのは、社会という有り様そのものが、常に自分以外の他者から何らかの“目”を向けられているからという構造ゆえなのだろう。誰も見ていなければ人間は間違いを犯す。酷い人間ともなれば、ひき逃げや詐欺などの重大な罪をも犯してしまう。だからこそ悠久の昔から「神の“目”が見ているから、いつ何時でも悪いことをしてはならない」という天国地獄の思想や様々な宗教が各地で伝えられ、社会としての秩序を守ろうとしてきたのだろう。
劇中では、盲目の人々の目に映るのは神々しいほどの白い光のみ。一方、見えているはずの主人公の目に映るのは、理性をなくした人間の、黒い黒い、どす黒い本性。同じ立場におかれたとき、本当に自分は人間としてそこに立っていられるだろうか? 人間の理性を、尊厳を失わずにいられるだろうか? 改めて自身の胸の内を深く深く覗き込まざるをえない。
・公開:11月22日(土)、丸の内プラゼールほか全国ロードショー
(C) 2008 Rhombus Media/O2 Filmes/Bee Vine Pictures
|