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■母なる証明 【洋画】




原作 ――
監督 原案も:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』、『グエムル-漢江の怪物-』)
脚本 パク・ウンギョ、ポン・ジュノ
キャスト
キム・ヘジャ
ウォンビン
チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン
配給会社 ビターズ・エンド

『グエムル-漢江の怪物-』のレビューはこちら
げに恐ろしい物語である。この秋に1本だけ映画を観るとするならば、迷わず本作を選んでいただきたい。『ユージュアル・サスペクツ』や『隣人は静かに笑う』、『セブン』等々、名作と言われてきた数々の作品を遥かに凌ぐ、確実にミステリー史上の金字塔となるであろう傑作が誕生した。

漢方薬店で働きながら、貧しいながらも一人息子を育てあげてきた母。息子は、純粋無垢な子供の心を持ったままに大人に成長した純朴な青年だ。ある日、ふたりが住む街で女子高生が殺されるという凄惨な事件が起こる。事件の容疑者として身柄を拘束される息子。彼の無実を信じる母親は疑惑を晴らすため、たったひとりで真犯人を追い始める……。

当然のことながら、誰にでも母親がいる。母親なくして生まれてくる子供はいない。そして母とは大概、自分の子供を無条件に受け入れ、自分を愛する以上の愛情を子供に注ぐ。私の母とて例外ではなく、季節が変わるごとに果物やら何やらを食べきれないほど送ってくるし、困ったときにはあらゆる手段で救いの手を差し伸べてくれる。聖母マリアといえば、すべての罪を包み込み許してくれる大いなる存在の象徴だが、ある意味、この地上のすべての母親は“聖母”であるのだろう。子供のためになら自分の命を捨ててしまっても構わない……自己を犠牲にしてまでも子供の幸福を願う、それこそが母としての本能、母性なのだろう。
その“母親”という聖なる存在を、こんなふうにポン・ジュノ監督は描いてしまった。誰が悪いのか、何が悪いのか。ここまでの悲しい物語がこの世に存在してもいいのか。観賞後、誰と、何をどう語り合えばいいのか。救いの存在であるはずの聖母が、こうなってしまうとは。『グエムル-漢江の怪物-(左下のリンクにご注目を)』で怪物を題材に映画を作ったことのある監督だが、ここまで人の心を抉るような作品を作りだす監督、彼こそが怪物そのものだ。
すべてのディテールが重なり合い、結末へとなだれ込む。一滴一滴の水のしずくは優しく皮膚をなでるような優しい癒しなのに、それが集れば豪雨になり、川を溢れさせ、家屋を押し流し、人命までも奪ってしまう。助かろうと一目散に逃げようとするが、深い水にどっぷりと浸かっていた体の動きは鈍く、あの結末が肺にまで入り込み、心の命を落としてしまう。母という救いの存在を、観に来たはずなのに。その救いの存在から、救いのないほどの衝撃を受けてしまうとは。

げに恐ろしい物語である。

10/31(土)、シネマライズ、シネスイッチ銀座、新宿バルト9他全国ロードショー


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記:林田久美子 2009/10/29