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■第9地区 【洋画】




原作 ――
監督 ニール・ブロムカンプ
脚本 ニール・ブロムカンプ、テリー・タッチェル
キャスト
シャルト・コプリー
デヴィッド・ジェームズ
ジェイソン・コープ、ヴァネッサ・ハイウッド
配給会社 ワーナー・ブラザース映画×ギャガ(共同配給)

ボーカリストLINDENメジャーリリース!
『第9地区』主演シャルト・コプリー初来日!
観終わった瞬間、もう1度観たくなった。レビューを書くのにこれほどワクワクする作品も珍しい。5年に1度……いや、10年に1度現れるか現れないかの絶品なのだ。

正体不明の宇宙船が南アフリカ上空に突如出現。上空に浮かんだきり何のアクションもない単なる宇宙船の中で、“難民”であるエイリアンは弱りきっていた。宇宙船の故障により故郷に帰れないエイリアンは地球に受け入れられたが、28年が経った今、その人口は膨大にふくれあがり、犯罪も絶えることがなくスラムと化している。超国家機関MNUは彼らを強制収容所に移住させる計画を立てたが……。

フォーマット通りに作られたハリウッドものにうんざりしている評論家たちはこぞって本作を絶賛した。大ヒットの原作を映画化するという安全パイ狙いの生ぬるい手法ではなく、完全なオリジナルの脚本。キャストはノーネームで、ハリウッドで名の知れたスター俳優などひとりも出てこず、主演に至っては役者志望でもなんでもないド新人(本作を期に超大作『特攻野郎Aチーム ザ・ムービー』へ大抜擢)で、監督も新人。舞台はアメリカでもイギリスでもなく、南アフリカ。そんな、賞とはほど遠いはずの本作が、その作品力だけでゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞にノミネートされ、各地の批評家協会賞でも数々の賞を受賞したのだ。

通常、エイリアンものと言えば、侵略や想像だにしない科学技術による恐怖かまたは友好を描くなど、とにかくエイリアンを人類以上の超越的存在……いわばドラえもんとして位置づけ、ありえない恐怖やファンタジックな出来事を盛り込みながら作られているものがほとんどだ。だが、本作のドラえもん(エイリアン)はポケットが故障してしまい、のび太(人類)からの称賛を得るどころかただの居候でタダ飯食い虫として疎まれている存在として描かれている。夢もロマンも何もない、まっこと現実的な設定なのだ。そのエイリアンも「何々星人はこういった性格」として画一的に描くのではなく、我々人類がそうであるようにさまざまな性格や知性レベル、容姿のエイリアンに溢れ、それもまた本作が現実味を感じさせる要因となっている。また、主人公の“のび太”もおよそ大多数から共感を得られそうなキャラではない。テレビカメラの前ではイイ顔をするくせにカメラマンには横柄、権威が大好きで権力を振りかざす、まった思慮深くなく浅はかな男だ。しかもその権力は自分の実力で掴んだものではなく、妻の父が権力者だったために得られた棚ぼたなだけ。その浅はかな男が権力の座についた結果は惨憺たるもので、その点からしても本作は秀逸な人間ドラマと言えよう。続きを予感させる終わり方になっているが、早く次作を観たい衝動に駆られる。

公開日がやって来たら、私も個人的に劇場に足を運ぶつもりだ。大切な友人と一緒に観て、そのトンデモナサを分かち合いたい。そしてできれば1度ならず、2度も3度も観たい。本誌の読者の皆さまに、心の底から推薦したい作品だ。今年のワールドカップは南アフリカ開催だから、予習(?)のためにもぜひ、大スクリーンでこの大傑作を味わっていただきたい。


4月10日(土)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー


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記:林田 久美子 2010/04/02