シネマピア
花田少年史〜幽霊と秘密のトンネル
小さな港町に住むワンパクな少年は、毎日わがもの顔で町中を騒がしていた。そんなある日、少年はトラックと衝突する大事故に見舞われる。すんでのところで九死に一生を得た少年には、幽霊が見える不思議な力が備わっていた…。
と、こう書くといかにもホラーチックな作品を想像してしまうのだが、本作は巷によくあるおどろおどろしいホラーの雰囲気を微塵も感じさせない。登場する幽霊たちはいずれもユーモアに満ちており、生きている普通の人間と何ら変わらないのだ。そう、お化けは化け物ではなく、“普通の人間”なのである。
私たちは物心ついた頃から、いわゆる“幽霊”というものに対して、少なからずとも恐怖心を抱いてきた。古くは『四谷怪談』、最近では『リング』や『らせん』、そして夏になれば稲川淳二の露出が多くなる。とにかく“幽霊は恐ろしいもの”として幼少の頃から刷り込まれてきた。
だが、本作を見て思ったのだ。幽霊って、本当にそんなに怖いものなのだろうか? と。普通に生きている人間が、あるときその肉体生命を失くしてしまう…それが死だ。さっきまで朗らかに陽気に生きていた人が、死んだ途端に身の毛もよだつ化け物に変身するとは、どうしても思えない。本作で、事故にあった少年が瀕死の自分の肉体を空中から見下ろすように、霊とは肉体から離れたあとの心のことを指すのだろう。だとすれば、幽霊とは生きていた頃そのままの個性を持っているはずだ。物凄い恨み心を持って無残な死を遂げれば、それこそ『リング』の貞子のように化け物になってしまうかもしれないが、そんな人は人口比率的にはごくごく少数だ。だとすればやはり、実際の幽霊は本作のように“普通の人たち”なのである。そんなに怖がる必要は、これっぽっちもないのである。
幽霊ものとはいえ、決してホラーには分類されない本作。背筋が凍るどころか心が温まるこの物語に、家族ぐるみで触れてみてはいかがだろうか。
花田少年史〜幽霊と秘密のトンネル(DVD)
監督:水田伸生
出演:須賀健太/篠原涼子/西村雅彦
ジャンル:邦画
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