シネマピア
ハッスル&フロウ
一度は夢を諦めかけた元ラッパー。天賦の才能を持っていながら、ストリートでの汚れた商売に手を染めながらしがない暮らしを送っていた彼に偶然、デビューへの転機が訪れる。最後とも言えるチャンスを離すまいと、必死でデモテープ作りに明け暮れるが…。
卒啄同時という言葉がある。雛が卵から孵るとき、内側から殻をつつく。親鳥は雛がくちばしを当てる同じ部分を外側からつつく。生まれ落ちたばかりの雛の力だけでは殻を破ることができないからだ。親と子の力が一体となって、初めて殻を破ることができる。
すべてが混沌とし、夢も希望も人間としての価値さえも見失うような生活。だがそこから、たったひとつの楽曲の制作を通じてひと筋の光が見えてくるさまは、現代社会の薄汚さに失望した人々に、少なからずとも何かしらの救いを与えてくれる。“夢”というものは、誰の手も借りずに自分で掴んでいくものだと。そして、自分の力で立ち上がったときに初めて、神近き力が救いの手を差し伸べてくれるものだと。本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、吹き替えなしのラップで歌曲賞をも受賞した、主演のテレンス・ハワードの迫力も圧巻だ。
日の光も届かないような汚れた泥沼の底。沼の底にはない、あふれる日差し、新鮮な空気…そうした天の恵みが外の世界にあると信じ、固く目を閉じながらその茎を精一杯に伸ばしていく。水面に到達し、そのふくよかな花びらをそっと開けたとき、蓮の花は天の意志を知るのだろう。何も不自由のない綺麗な場所から花を咲かせるよりも、あの泥の中から苦労に苦労を重ねて咲かせた花のほうが、苦渋を知った分、輝きを増しているのだと。すべての苦しみは天が与え給うたものだと。お釈迦さまはその苦難の歩みをすべてご存知だからこそ、その努力の分を含め、余計に蓮の花を愛してくださっているのだと。
ハッスル&フロウ(DVD)
監督:クレイグ・ブリュワー
脚本:クレイグ・ブリュワー
出演:テレンス・ハワード/アンソニー・アンダーソン/タリン・マニング
配給:UIP
ジャンル:洋画
公式サイト:http://eiga.com/official/HandF/
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