シネマピア
地下鉄(メトロ)に乗って
いつもどおり、多忙な一日に身を任せて営業職を全うするサラリーマン。ある日突然、地下鉄の駅から主人公が迷い込んだのは、自分の子供時代、まだ父と母が結婚もしていない昭和39年だった。
舞台となる新中野駅には、実は私も何度か訪れたことがある。あの街並みが、その昔はこんな顔をしていたのかと思うと、それだけで圧巻だ。しかも、その過去の新中野駅にいちばん近いロケ地として使われたのが、なんと竹橋駅だというのだ。場所が場所なだけに借り切ることもできず、撮影は終電後に行われたという。もっとも、日中でも陽の射さない構内だから、夜中であっても昼間の撮影ができるわけだ。
また、新中野の商店街「鍋屋横町」、通称「鍋横」のロケ地は静岡県伊東市のとある商店街だという。店の看板や外装、内装を作りこんでいったものの、8割くらいの建物はそのままで撮影可能とのこと。昔の面持ちは、首都の都心部が目まぐるしい変化を遂げただけで、この現代にも意外と昔ながらの街並みは受け継がれているのだ。
本作は浅田の自伝的小説でもある同名タイトルの映画化作品。吉川英治文学新人賞を受賞したこの小説を、余命を宣告された父の病床に届けたという。父が読後に告げた感想の一言は「バカヤロー」だったのだが、そこはそれ、江戸っ子ならではの照れ隠しであり、浅田にとっては最高の賛辞だったのだろう。
自らの出生というテーマをファンタジックな要素で包み込み、なかなか心温まる作品だった。が、あれは監督の趣味なのだろうか……主人公とその彼女のラブシーンが濃厚すぎで、そこだけかなり浮いている感じだった。残念。ファンタジックな質感は統一して欲しかった。
地下鉄(メトロ)に乗って スタンダード・エディション(DVD)
原作:浅田次郎
監督:篠原哲雄
出演:堤真一/岡本綾/常盤貴子
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.metro-movie.jp/
© 2006 METORO ASSOCIATES
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