シネマピア

クリムト

いいわゆるストーリー展開という概念はない。一枚の静止画のような映画だ。

芸術の都であったウィーンの栄光が頂点を過ぎ、まさに終焉を迎えようとしていた19世紀末。アール・ヌーヴォーの代表画家、グスタフ・クリムトは末期の病床にあった。朦朧とした意識の中、人生の栄光と挫折が走馬灯のようにめぐりはじめる。保守的なウィーンでは官能的な作品がスキャンダルとなり、彼を非難する声が高まる。だが逆に、パリではその才能を絶賛されていた。また、モデルたちには肉体的な愛を欲し、その間には30人もの子どもがいた。

しかし、魂の恋人(宿命の女=ファム・ファタル)には純情なまでにプラトニックでいようとした。金箔の多用、キャンバスを裁断するかのような大胆な構図、テキスタルデザインのようなパターンの繰り返しなど、その作風は日本で琳派(りんぱ)と呼ばれた一派の東洋的エッセンスが、生粋の西洋人である彼のもとで交わる。「接吻」に代表されるように甘美で妖艶なエロスで生を表す一方、少女の遺体を描くなどして、必ずや訪れる死をも見つめた。

若い画家にチャンスを与えたはいいが、今度は彼らの新たな才能に脅かされる。多くの女性に囲まれていながら、たったひとりの本命女性との恋はなかなか成就することができない。このように、クリムトの生涯は異なる極と極の間を激しく揺れ動いていたのだ。そんな人生を象徴するかのように、本作も“現実”と“虚構”の間を彷徨い続ける。時系列は迷路のように入り組み、幻覚と現実は見事にとけあう。彼の絵画の大胆な構図のように、シーンはいきなり分断され、連続性を持たない。

理性を使わずに感性だけで楽しむ、こんな粋な映画を味わうのも芸術の秋の醍醐味だろう。

クリムト デラックス版(DVD)
監督:ラウル・ルイス
脚本:ラウル・ルイス
出演:ジョン・マルコヴィッチ/ヴェロニカ・フェレ/サフロン・バロウズ
ジャンル:洋画















エンタメ シネマピア   記:  2006 / 10 / 25

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