シネマピア
死刑台のエレベーター【往年の名女優 ジャンヌ・モロー】
「もう耐えられない。愛している。愛している。だからやるのよ」
受話器を耳にした女の顔のクローズ・アップに、マイルス・デイヴィスのトランペットが流れ始める。女はジャンヌ・モロー。彼女は自分の旦那を殺すよう、情夫にけしかけている……。『死刑台のエレベーター』はこうして始まる。
ジャンヌ・モローは笑わない。いつも口をへの字にしている。けれども、本当にそうなのかと聞かれれば、根が素直なオレは、すんません、実はそんなことはありましぇん、と謝ってしまう。でも、ついつい、そんなことを口にしてしまうのは、オレが悪いんじゃない。この映画が悪いのだ。あの冒頭シーンが悪いのだ。そりゃ、そうだろう。あの冒頭シーンの強烈なインパクトに圧倒されてしまえば……。
だが、オレはここで強気で断言したい。少なくともこの映画のジャンヌ・モローは笑っておらん。黒のスーツにバッチリと身を固め、ボディラインはまったくうかがえないし、色気も何もありゃしない。この女に惚れる男の気持ちもわからんし、第一、こんなにスキのない女、怖くて男は絶対に近づかん。いや、近づかないだろう……というか、少なくともオレは近づかん。
けれども、あの大きな瞳の魅力には抗しがたい。あの少しばかり視線が宙を舞っているような無表情な瞳……あの瞳のなかに、オレは彼女の「女」が凝縮されているを見てしまう。眼球にエロスあり、とでも言いましょうか。
と、ここまで書いてきて、根が素直なオレは白状しなければならない。実は、この映画でもジャンヌ・モローは笑っているんです。ごめんなさい。
ラスト・シーンで写真が現像される。その写真はジャンヌ・モローと情夫との関係を示す証拠、ひいては殺人の動機の証拠となり、結局、2人は破滅するわけだが、写真のなかのジャンヌ・モローは笑っているのだ。しかも、すごく幸せそうで、かわいらしい。そこで恐らく世の男たちはいっせいに「あ??いい女だなあ」となるのだろうが、それもつかの間、その写真は現像液のなかに深く沈んでいってしまい、そこにFINの文字がかぶさってしまう……。
やはり断言しよう。ジャンヌ・モローは笑顔を奪われた女なのだと。
死刑台のエレベーター(DVD)
原作:ノエル・カレフ
監督:ルイ・マル
脚本:ルイ・マル/ロジェ・ニミエ
出演:ジャンヌ・モロー /モーリス・ロネ /ジョルジュ・プージュリー
ジャンル:洋画 クラッシック
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