シネマピア

怪談

夏に怖い話は付き物である。科学的考察を交えながら、あたかもリアルそうに作りあげられた鈴木光司などの現代ホラーもいい。だが、古くから伝わる日本の伝統的な怪談は、花火を見るような、スイカを食べるような、蚊取り線香を焚くような、そんなどこか懐かしい風情を味わわせてくれるのである。
煙草売りの男(新吉)と三味線の女師匠(豊志賀)は互いに惹かれあうが、呪われた因縁が二人の恋に様々な障りを起こしていく…。原作は落語の『真景累ヶ淵』。いままでに10本以上も映画化された由緒正しき古典だ。

それにつけても、この新吉という男はイヤな男だ。約束なんかは口から出まかせ、自分のことしか考えず、出会う女出会う女に惚れてばかり。因縁云々いう前に、ただ単に親の血をひいているとしか思えない。
このムカつく役回りをサラリと上品に演じているのは、尾上菊之助。歌舞伎界の名門に生を受けたエリート中のエリートだ。男らしいというよりどこか中性的で端正な顔立ちは、観る者に罪を罪として認識させない不思議なオーラを醸し出している。憎めないところがなお憎い! 
うぅぅ、卑怯ですよ、旦那。

そこにまとわりつくのは、豊志賀演じる黒木瞳の美しさ。新吉を呪いに呪う豊志賀だが、透きとおるような面持ちの黒木にかかれば、もはや呪いさえ芸術のように思えてくる。
そう、悪いのは新吉であって、豊志賀はそんなダメダメな新吉を愛し続けただけだ。慕い続けただけだ。愛する者を自分だけのものにしたいと思う気持ちは、そんなに悪いことだろうか? 死を超越してもなお相手を愛そうとする気持ちは、そんなにオゾマシイものだろうか?

この“崇高”な愛をまとめ上げるのは、ジャパニーズ・ホラーの代表作『リング』を手がけた中田秀夫。まるで手で触れるかのような確かな質感で、映像の1コマ1コマに生命を吹き込んでいる。ホラーという、恐ろしくて気味の悪いジャンルであるにも関わらず、作品全体がみずみずしく生気を帯びているのだ。

惜しむらくはエンディング曲か。このアーティストはこのアーティストで素晴らしいのだろうが、果たしてこの曲は本当に本作に合っているか? せっかく風情のある世界観に心を浸していたのに、一気に現実に引き戻されてしまったではないか。製作会社として名を連ねているからといって、自社アーティストを無理矢理ねじ込むのはいかがなものかと思う。本作もアーティストも、どちらの評判も落として欲しくはないのだから。

怪談(DVD)
真景累ヶ淵(単行本)
原作:三遊亭円朝
監督:中田秀夫
出演:尾上菊之助 /黒木瞳 /井上真央
ジャンル:邦画

© 2007「怪談」製作委員会















エンタメ シネマピア   記:  2007 / 07 / 26

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