シネマピア
アウェイ・フロム・ハー 君を想う
年老いてもなお、愛し愛され続ける夫婦。アルツハイマーに犯され、好きだという気持ちさえわからなくなってしまっても…それでもその愛の形を続けることはできるのか。そんな相手を、許すことができるのだろうか。
結婚生活44年目の夫婦。ある夕方、ひとりでクロスカントリー・スキーに出かけた妻は、自身がどこにいるのかさえわからなくなる。アルツハイマーと診断された妻は、老人介護施設への入所を決断する。「施設に馴染むため入所後30日間は面会も電話連絡も禁止」というルールののち、1ヶ月後に施設を訪れた夫は、とんでもない光景を目の当たりにすることになる…。
記憶というものは非常に曖昧だ。すべてが自分の脳の中、心の中にしか留められていないから、自分の都合のいいように作り変えられてもしまう。ましてや、1ヶ月も親しい人と会わずに過ごし、それがアルツハイマーの真っ只中だったとしたら…、今までの人生はまったく忘れ、まったく別の人生を歩み始めてしまうのだという。自分のことを忘れてしまった妻のことを、夫は許すことができるのか? 愛の永遠性とは何か? 究極の問いかけが、ユーモアも交えながら淡々とした描写で綴られていく。
監督・脚本はサラ・ポーリー。『あなたになら言える秘密のこと』や『死ぬまでにしたい10のこと』の主役を務めた彼女が、今回はメガホンを取った。若干29歳にも関わらず、複雑な人間心理を巧みな演出と映像で表現しきっている。
と、こう書くとお涙頂戴的で一点の曇りもない美しい美しい物語を想像してしまうかもしれないが、そう一筋縄ではいかないのが本作の醍醐味だ。誰もが犯すであろう人生の汚点、目を背けたくなる過去、結果的に何かに流されてしまって聖人君子のように生きることなどできない人間の性…そうしたものさえもつぶさに描かれ、スルメのように味わい深く、何度も何度も噛みしめてしまう作品に仕上がっている。うぅむ、29歳、恐るべし。才能は年齢とは無関係ですな。
アウェイ・フロム・ハー 君を想う デラックス版(DVD)
イラクサ(単行本)
原作:アリス・マンロー『クマが山を越えてきた』短編集「イラクサ」より
監督:サラ・ポーリー
脚本:サラ・ポーリー
出演:ジュリー・クリスティ /ゴードン・ビンセント /オリンピア・デュカキス
配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ
ジャンル:洋画
公式サイト:http://www.kimiomo.com/
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