シネマピア
ミラクル7号
すでに雑誌やTVスポット、Webなどで露出しているのでご存知の方も多いと思う、宇宙から来た「使えねー」生命体「ナナちゃん」。この「ナナちゃん」があんまり大活躍しない(笑)チャウ・シンチーの新作が『ミラクル7号』。
『少林サッカー』や『カンフーハッスル』など、大真面目に馬鹿馬鹿しい作品をヒットさせてきた、チャウ・シンチーはここでも監督&主演をこなしているが、彼の名前を日本でもポピュラーにした上記の作品と同じような、大掛かりな馬鹿馬鹿しいお笑いを期待していると、この『ミラクル7号』にはキョーレツな肩透かしを食らう。
例え貧しくても志は高く、建築現場で働くティー(チャウ・シンチー)はキツイ仕事を続けながらも、息子のディッキー(シュー・チャオ)を名門の小学校に通わせる毎日。しかしディッキーはその貧乏ゆえ、クラスメイト達のイジメにあう。そんなある日、ティーがゴミ捨て場から拾ってきた妙なおもちゃが、実は宇宙から来た謎の生物。ディッキーはそれを「ナナちゃん」と名づけ、可愛がる。しかしこの「ナナちゃん」がまったく使えねーヤツ。秘密兵器もないしパワーもノラ犬以下。それでもディッキーは「ナナちゃん」と一緒に楽しく学校に通っていた。そんなある日、工事現場で働いていたティーが事故に遭ってしまう。その知らせを聞いたディッキーは病院に駆けつける。そしてナナちゃんは・・・・。
チャウ・シンチーが演じるのは、どの作品でも底辺層に暮らす男だ。貧乏で金がない、しかし高いプライドと志を持つ男を演じている。これは往年の喜劇王と呼ばれた、チャーリー・チャップリンが演じ続けてきたパターンとよく似ている。もちろん、ギャグの質は全く異なるものの、貧しさそのものをネタにした笑い、金持ちの不幸をあざ笑うギャグ、そして少しだけホロリとさせるストーリーなど、おそらくチャップリンを少しは意識しているのだろうことを思わせる。
特に、この『ミラクル7号』は、前作までのギャグオンリーで引っ張ってゆく荒技は控えめになり、(それでもあり得ない無茶なお笑いはいくつかあるが)そのかわり、ティーとディッキーの丁寧でしつこいほどの貧乏描写や、彼らをさりげなく見守りフォローしてゆくユエン先生や、悪ガキ軍団のセコいイタズラなどを詳しく描いてゆく。その詳しい描写が、実は後半への伏線になっているのだが、その伏線の貼りかたが露骨にミエミエ。
チャップリンが意外なところに伏線を貼って、観るものを「はっ」と思わせていたのとは異なり、チャウ・シンチーは伏線すらもネタとして利用する。したがって、作品のクライマックスは、多くの観客が伏線から想像する通り、ミエミエの展開になってゆくのだ。
もちろん、ミエミエでも最後まで飽きさせずに観せる手腕には恐れ入るが、それはディッキー役のシュウ・チャオの演技によるところが大きい。このシュウ・チャオ、実は女の子。女の子ながら見事に「男の子」を演じこなしているあたり末恐ろしいものを感じる。だって言われなきゃ解らないですよ、ディッキー演じている子が女の子だなんて。ちなみにディッキーのライバル、金持ちのいじめっこジョニーを演じるホアン・レイも女の子。なんかスゲエですこのキャスティング。
いい意味でチャウ・シンチーの新境地というか、明らかに今までとは違う領域に乗り込んできた感のある『ミラクル7号』。この路線が成功するかどうかは解らないが、広がる一方の貧富の格差や社会的インフラの未整備など、中国の現状を描きながら変ろうとしてゆく国の、変ろうとしている人たちを描くという面をみても、1930年代から40年代の近代化に突き進む米国におけるチャップリンのイメージがダブっているような気がする。
ただし、ラストシーン。気高き放浪者チャーリーが道を真っすぐ先に進んでゆく、希望に充ちたラストがお決まりのチャップリンに対し、チャウ・シンチーはとんでもない「ネタ」を披露してくれます。どうしましょうね、コレ(笑)
ミラクル7号(Blu-ray)
監督:チャウ・シンチー
脚本:チャウ・シンチー
出演:チャウ・シンチー /シンチー シュウ /チャオ キティ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
ジャンル:洋画
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