シネマピア
百万円と苦虫女
わらしべ長者ならぬ、逆わらしべ長者とも言える傑作だ。
短大卒業後、就職もできずフリーター暮らしの主人公(蒼井優)。ある事件をきっかけに貯金が百万円になるごとに誰も知らない土地へ移り住むことにする彼女は、行く先々で様々な人たちに出会っていくが…。
ご存知のように『わらしべ長者』といえば、1本のワラを手放すことから様々な出会いが生まれ、幾多の縁を経て、貧乏人が大金持ちになるというおとぎ話だ。
本作では、ダークな過去を抱えてしまった主人公が百万円という“ワラ”をキーワードに、人との関わりを極力避けながら生きていく。わらしべ長者とは逆に、人から逃げ、逃げ、逃げ、逃げまくり、心の扉を閉ざしたまま新しい環境で生活を営むのだ。主人公は自分自身から逃げるために人から逃げている。このことは裏を返せば、自分と他人とは紙の裏表のように密接に繋がっているということを意味する。いつか自分と向き合えたとき、初めて彼女は他人に心を許すのかもしれない。
『タカダワタル的』で監督、『さくらん』では脚本を担当したタナダユキが、本作では監督と脚本の両方を手がける。特に、理性を忘れた人間が口走る破綻した論理展開は絶品。いま流行の“自分探し”などしなくとも、自分はここにいる…タナダの脚本が冴えに冴え渡る逸品だ。周囲の人々が見せる人間の汚さ、そして辛口の結末も、実にリアルで小気味よい。
蒼井が次々と纏う、コスプレかと見紛うほどの様々な職業のユニフォームや、ピエール瀧、笹野高史の怪演も圧巻。
百万円と苦虫女(DVD)
監督:タナダユキ
脚本:タナダユキ
出演:蒼井優 /森山未來 /ピエール瀧
ジャンル:邦画
© 2008「百万円と苦虫女」製作委員会
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