シネマピア
次郎長三国志
●直球勝負、正しいチャンバラ映画
スマッシュヒットとなった「寝ずの番」に続くマキノ雅彦(=津川雅彦)監督2作目の映画は、何と叔父のマキノ雅弘監督十八番の「次郎長モノ」。オールドファンには懐かしいあの主題歌と共に、次郎長一家がスクリーンに帰ってきたですよ。
とにかく結論を先に言っちゃえば、2時間の長丁場、飽きさせることなく楽しめる現代の娯楽映画にキッチリ仕上がっている。殆ど絶滅してしまった時代劇・チャンバラ映画に飢えていた全国数百万(想像)のファンに応える、21世紀のチャンバラ映画、なのだ。
正直スクリーンで観るチャンバラは楽しい、しかもこの「次郎長三国志」キャスティングがえらく豪華。脇役であっても存在感のある役者を揃えて、映画に厚味とゴージャス感を醸し出している。「あ、勝野洋がこんなところに!」とか「蛭子さん相変わらずセリフ下手」とか、観ながら色々な俳優が出てきて楽しめるのは、往年の「オールスター総出演!」的な東映時代劇っぽい感じでワクワクする。
そして映画ならではの情報量。例えば次郎長とお蝶が、居間でイチャイチャしているシーンの後景で、フォーカスをハズしながらも女中たちがこっそり覗いている様子とか、テレビではどうしてもバックグラウンドに紛れてしまうような、後景にいる役者たちもちゃんと演技している作り込みが、画面に奥行きと説得力を与えている。
むかしの東映ならもちろんミュージカルシーンのひとつでも入れるのだろうが、さすがに現代ではそうも行かないのだろう。しかし、次郎長モノではお馴染のあの唄「旅姿三人男」を、宇崎竜童がモダーンなアレンジでカッコよく唄いあげる。そしてもちろん、背景は茶畑と青空に栄える富士山。思わず「いよっ!待ってました!」の掛け声が出そうになるのをじっとこらえる必要があるかもしれない。
まあ、フィルムセンターで観る旧いチャンバラ映画と比べるのは少々気が引けるというか、往年のチャンバラ映画の爽快感、疾走感に欠けるキライはあるものの、テレビの時代劇では観ることのできない豪華なチャンバラシーンはやっぱり楽しい。この作品は手持ちカメラでの臨場感、迫力を十分堪能できるが、全体像が見渡し難いきらいがある。古き良き時代の映画のような、引きの画面のパノラミックなチャンバラがあれば良かったんだけどなあ。
というわけで、この「次郎長三国志」は笑いあり、涙あり、そして人情、裏切り、チャンバラアクション。娯楽映画として老若男女みんなで楽しめる作品に仕上がっている。個人的にはVシネの帝王、竹内力演じる悪役のワルノリっぽい怪演にやられました。いやあ、ほんと脇役も存在感があって、自己主張が強くって、これは楽しい時代劇なので、あります。
なにやらストーリーにも続きがあるような含みというか、予感を漂わせ、叔父同様、シリーズ化を目論んでいるんでしょうかマキノ雅彦監督。
次郎長三国志(DVD)
監督:マキノ雅彦(=津川雅彦)
脚本:大森寿美男
出演:中井貴一 /鈴木京香 /岸辺一徳
配給:角川映画
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.jirocho-movie.jp/
© 2008 次郎長三国志制作委員会
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