シネマピア
ICHI
折りしも男女平等が叫ばれ、“女性の時代”とも呼ばれている昨今。強い英雄が男性ではなく女性だったとしても、さして違和感はない。
勝新太郎のテレビシリーズが戦後のお茶の間に活力を与え、最近ではビートたけしにより手がけられて国際的にも認知度を高めた座頭市。盲目のこのヒーローを、『ピンポン』の曽利監督が女性版として甦らせた意欲作が本作だ。
たったひとりで三味線を弾きながら唄う、瞽女(ごぜ)と呼ばれる盲目の旅芸人、市(いち)。市は、自分と同じ瞽女が男たちに乱暴されていても助けようともせず、外界から心を固く閉ざしている。だが暴漢たちが市を襲おうとしたその時、ひとりの侍が市を助けようと止めに入り…。
綾瀬はるか演じる市は、思春期のとある体験から心にトラウマを抱え、他人に心を開くことを極力拒んでいる。盲目であることは、実は彼女にとって都合のいい隠れ蓑になっていたのだ。
現代は“個の時代”とも称される。少子化による核家族化からか、またはインターネットの普及により生身の人間と接しなくとも生きていける世の中になったからか。他人から干渉されることを嫌い、と同時に自分自身も他人への関心はゼロに等しい…そんな人間が増えてきているという。
ひょっとすると、我々の誰もが市のような生き方に陥ってはいないだろうか? 傷つくことを恐れて他人との関わりを極力排除し、自分だけの殻に閉じこもって実りの少ない人生を送るか、はたまた、傷つくことなど恐れずに人と接し、心と心の触れあいから生じる様々な化学変化を人生の糧とし、自らを向上させていくか。その答えを示してくれる、貴重な貴重な1本だ。
綾瀬はるかが吹き替え一切なしで挑んだという、本腰の入った骨太な殺陣も見逃せない。サイボーグ(『僕の彼女はサイボーグ』)でなくとも、綾瀬は強い?!
ICHI(Blu-ray)
監督:曽利文彦
出演:綾瀬はるか /大沢たかお /中村獅童
ジャンル:邦画
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/ichi/
© 2008 映画「ICHI」製作委員会
Tweet |