シネマピア
スラムドッグ$ミリオネア
年に何度か、「これは」と思う作品に巡り会う。そして数年に1本程の割合で、人生で5本の指に入るような傑作に出会う。本作はその後者の、類稀なる絶品だ。
ある日、18歳の少年が警察に逮捕される。インドで大人気を誇るクイズショーに出演し、あと1問の正解で番組史上最高の賞金を獲得できるところまで勝ち抜いたからだ。学校にも行ったことがないスラム出身の孤児が、医者も弁護士も勝ち残れなかったこの領域になぜ踏み込むことができたのか? 不正を疑われた彼は苛酷な取り調べを受けるが、その真実とは…。
本作鑑賞後、すぐに思い浮かんだのは『フォレスト・ガンプ 一期一会』と『ニュー・シネマ・パラダイス』。どちらも名作として名高い作品だ。前者は、知的障害のある少年が多くの人との出会いを手繰り寄せていくうちに大成功(本人には成功者という意識はないのだが)を手にするという現代版わらしべ長者。後者は、幼かった少年が町の映画館の栄枯盛衰から大切なものを学び、大人になっていくという物語。
ストーリーだけを見れば「少年の成長」ということしか共通点はないが、そのスケールの大きさ、作品に込められたメッセージ性、そしてなんと言っても「人生とは、実はこんなにも豊かなものなのだ」と感じさせてくれる晴れ晴れとした満足感は、先に挙げた2作や、自分史チャート上位に食い込む他の傑作たちと同様のものだった。
マスコミ試写室でハンカチを出して涙を拭こうものなら、クールな業界人たちから顰蹙の視線を浴びてしまうのだが、もう、そんなことはおかまいなしに私は頬まで伝わった涙をハンカチで拭いながら見入っていたのである。
純粋な魂の純粋な願いのもとには運命さえもひざまずくということ。夢を見るためにクイズ番組に出演するのならば、現実世界に生きる我々が本作を観ているその時間も夢のようなひとときなのだということ。
この作品の良さを語ろうとすれば、優に5000文字は超えてしまうだろう。だが、あえて多くは語らない。無名俳優だけの起用、インドでの撮影という条件からハリウッドのメジャースタジオのすべてが公開を見送ったにも関わらず、アカデミー賞作品賞をはじめ数々の映画賞を総なめにしたという事実。
そんな条件下から作品力だけで見事這い上がってきたこの作品こそ、スラムから成功者への道を突き進む主人公の人生を体現していると言えるだろう。
果たして本作は、あなたの人生の5本の指にも入るだろうか。ぜひとも劇場でご確認いただきたい。
スラムドッグ$ミリオネア(Blu-ray)
ぼくと1ルピーの神様(単行本)
原作:ぼくと1ルピーの神様
監督:ダニー・ボイル
脚本:サイモン・ビューフォイ
出演:デーヴ・パテル /フリーダ・ピント /イルファーン・カーン
ジャンル:洋画
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