シネマピア
グラン・トリノ
まただ。今年は人生の5本の指に入る名作が豊作だ。
妻を亡くした1人の老人。朝鮮戦争から生還し定年までフォードの自動車工を勤め上げた男だ。彼は、自分の正義から外れるものはたとえ血の繋がった孫娘がやることでも許せない。その彼が大事にしているのは、1972年に自らステアリング・コラムを取り付けてピカピカに磨き上げた愛車、グラン・トリノ。だが、隣家のアジア系移民(モン族)の少年が、その車を盗もうと夜中にガレージに忍び込み…。
『ダーティーハリー』シリーズで俳優としての名を馳せたのちに監督業や製作も手がけ、『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』でも各賞を総なめにしたクリント・イーストウッド。最近では監督と製作を兼任した『チェンジリング』でもカンヌ国際映画祭で特別賞を受賞し、パルムドールにノミネートされたことも記憶に新しい。
そのイーストウッドが、彼の史上最高の興行収入を上げたのが本作だ。「どうやってあんな傑作を生み出すのかわからない」とまでニューヨーク・タイムズ紙に言わしめたこの作品は、イーストウッド作品らしく、その重厚感はいぶし銀のように味のある光を放ち続ける。
そしてまた、人間というものを事細かに描写し、慈しみのある目で見守りながら編み上げたそのあたたかみやユーモアも、彼の作品ならではの醍醐味だ。
特筆すべきは、この脚本を書き上げたニック・シェンクが、これが映画デビュー作となる新人だということだ。イーストウッドは、良いものは何でも採用する。劇中で重要な役割を果たすモン族(東南アジアに住む民族)のキャストも実際のモン族を起用し、しかもほとんど全員が映画出演が初めてで、本作のためにオーディションで選ばれた素人たちだ。
作品や素材さえよければこのように巨匠の目に止まり、その巨匠のキャリアさえ押し上げるような甚大な力をも持つことになる。多くの脚本家や俳優志望者にとっても、本作のシンデレラストーリーは後世に語り継がれることになるだろう。
『スラムドッグ$ミリオネア』に引き続き、本作も私の頬に涙を伝わせた。それも、滝のような涙を。そういえばどちらの作品も、アジア系の登場人物がキーマンとなっている。今年前半の映画は、アジア系が席捲というところか。是非、本作も劇場でその名作度をご確認いただきたい。
グラン・トリノ(Blu-ray)
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
出演:クリント・イーストウッド /ビー・バン /アーニー・ハー/クリストファー・カーレイ
配給:ワーナー・ブラザース映画
ジャンル:洋画
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/#/top
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