シネマピア
9<ナイン>〜9番目の奇妙な人形〜
人形映画だからと言って、単なる子供向け作品ではない。大人も充分に満足できる、深い作品なのだ。
人類が滅びたあとの世界。麻布を縫い合わせて作られた身体、腹部には大きなジッパー、丸いガスマスクの目、背中には数字の“9”が描かれている人形が古びた研究室の片隅で目を覚ます。彼は、ここがどこか、自分が何者なのかまったくわからない。研究室を飛び出した彼は、背中に“2”と描かれた別の人形と出会う。仲間がいると知って安心したのも束の間、巨大な機械獣が彼らを襲い始め……。
本作が製作されたきっかけは、1本の短編映画だった。新人監督によって作られたそれは2005年のアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされ、あのティム・バートンをして「これまでの人生で見た映像の中で、最高の11分間だった」と言わしめた。その世界観に惚れ込んだティム・バートンはプロデューサーとして長編化のための全面的なバックアップに乗り出し、本作が完成したというわけだ。
人形たちがメインキャストというものの、夢たっぷりでファンタジックで面白おかしくて……といった要素はほとんどない。まるで彼らは人間のように振る舞い、感じ、行動し、小さな集団にありがちなギスギスした人間関係(人形関係?)すらもがリアルに描写される。
戦士キャラの人形が登場するシーンなどは、外見は下腹がぷっくり出てダサい丸メガネのはずなのに思わず「カッコイイ……」と呟いてしまうほど、峰不二子チックでとんでもなく魅せられてしまうのだ。
スチーム・パンク(産業革命の原動力となった蒸気機関が発達し、現実とは異なる方向に発達した社会を前提として描くSFジャンル)を基とした精密に描かれる背景もまた同様で、ほのかな光を巧みに使用したダークな世界は今までの人形モノとは一線を画し、荒廃した“未来の地球”が痛いほどに胸に迫ってくる。
ただ、人形たちの秘密が明らかになった後のストーリー展開は別のものを想像してしまっただけに、美しすぎるラストよりも、それまでの悲しい世界観のままのラストへ突っ走ってほしかった……というのは私のエゴだろうか。あのラストはキリスト教圏ではすんなりと受け入れられるものだろうが、そうではない多くの日本人には、もしかしたらあまり理解が及ばないかもしれない。とはいえ、真実はきっと本作のほうが近いのだろうし、そのほうが断然感動的で、夢も希望もあるのだろう。
『アバター』や『第9地区』など異形のヒーローたちが観客の心を掴んだ昨今だが、本作のヒーローたちもその流れに乗り、子どもはおろか、大人たちの心も掴んでいくに違いない。
そういえば今年は『NINE』という作品もあった。今年は「9」という数字流行りのようだ。1ケタの、いちばん最後の数字。1タの中ではいちばん大きい数字。1ケタの中ではいちばん完成された数字。けれど2ケタには届かない、1歩手前の未完の数字。その数字が示す世界に、あなたは何を観るだろうか。
9<ナイン>〜9番目の奇妙な人形〜 コレクターズ・エディション(Blu-ray)
監督:シェーン・アッカー(原案も)
脚本:パメラ・ぺトラー
出演:イライジャ・ウッド /ジョン・C・ライリー /ジェニファー・コネリー/クリストファー・プラマー
配給:ギャガ powered by ヒューマックスシネマ(提供も)
ジャンル:洋画
公式サイト:http://9.gaga.ne.jp/
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