シネマピア
マイ・ブラザー
トビー・マグワイアの鬼気迫る演技が、その表情が、何日も脳裏にこびりついて私の心にのしかかっていた。かくも重いこのドラマ……これこそが戦争が人を壊していくという現実なのだ。
元チアリーダーを妻に持ち、米軍大尉として功績を残し、そして人望も厚く、英雄として輝かしい人生を送ってきた兄(トビー・マグワイア)。一方、弟(ジェイク・ギレンホール)はといえば定職にもつかず、ちょいワルどころかとんでもない犯罪をやってのけるほどのマジワルだ。ある日、戦地に赴いた兄の訃報が家族のもとに届く。てっきり死んだと思われていた兄だが、ほどなく生存が確認され、家族のもとに戻ってくる。まるで別人のような性格に変わり果てて……。
誰もが聖人として生きているわけではなく、長い人生の途中、ときには人としての過ちを犯してしまう。だが、兄が犯した過ちとは我々の日常生活から想像できるものとは段違いのレベルのものだ。否、ひょっとしたら“過ち”とはいえない究極の決断だったのかもしれない。戦争によって“最悪”の人間に成り果ててしまった兄。彼が犯した行為は弟の犯罪などとは比べ物にならないほどの破壊力で、彼の人格を壊してしまった。その行為のトラウマから、そして罪悪感から、皮肉にもワルの弟よりも劣悪な人間に変貌してしまったのだ。
そんな人間を、周囲の者たちは受け入れることができるのか、許すことができるのか、変わらぬ愛を注ぎ込むことができるのか。そして当の本人……罪人は、自分自身を許すことができるのか。“あの日の行為”が片時も頭から離れないその苦悩をトビー・マグワイアが熱演。冒頭のその行為の衝撃的なシーンよりも後の日常で彼が見せる表情のほうがさらに衝撃で、胸を深く抉り出されるような痛みさえ覚える。ただ、ラストがいかにもハリウッド的だったのが、残念といえば残念ではあるが。
弟を演じるのは『ドニー・ダーコ』のジェイク・ギレンホール。天真爛漫なダメ人間を痛快に演じる。また、兄の妻役には『スター・ウォーズ』シリーズのナタリー・ポートマン。最悪の事態でも夫を支えようとする献身的な妻を果敢に演じる。この3人全員がゴールデン・グローブ賞ノミネートされた本作。人間が辿りつく闇の底を、そしてそこに差し込む一条の光を、ぜひ劇場でご確認いただきたい。
マイ・ブラザー(Blu-ray)
監督:ジム・シェリダン
脚本:デヴィット・ベニオフ
出演:トビー・マグワイア /ジェイク・ギレンホール /ナタリー・ポートマン/サム・シェパード
配給:ギャガ powered by ヒューマックスシネマ
ジャンル:洋画
公式サイト:http://my-brother.gaga.ne.jp/
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