シネマピア
ぼくのエリ 200歳の少女
白い雪と氷の国、スウェーデン。この国のベストセラーとなった、美しい童話のようなストーリーに乗せて人間の性(さが)をあぶりだしながら描く物語。本作はいじめられっ子の少年とバンパイアの少女との小さな恋物語だ。
毎日のように学校で同級生から理不尽ないじめを受けている孤独な少年、オスカー。隣家に越してきた黒い髪の少女エリは学校にも通わず、夜にしか姿を現さない不思議な女の子だ。いつしか互いにほのかな恋心を抱く彼らだが、そんな折、町はおぞましい殺人事件の話題で持ちきりになる。何者かに逆さ吊りにされてノドを切り裂かれ、血を抜き取られた若者の死体が森で発見されたのだ……。
少年の美しい裸体をこれでもかこれでもかと(監督に“そのケ”があるのではないかと思えるほど)映し出すカメラ。その肌は天使のように白く、スウェーデンを象徴するかのように透き通る。まるで童話のような本作だが、グリム童話で例えられるように本当の童話とは残酷で恐ろしいものだ。本作もその王道を極め、屈折した方法でいじめに耐え抜く少年の繊細さが怖いほどに描かれる。
一方、少女は少年とまったく逆で、髪も肌も黒い。日光を避ける=色白というイメージから、前知識なしで見るならば少年がバンパイア、少女が人間にも見えてしまう。だがバンパイアの本能や動物性を強調し、生き血を吸う=結果的に殺人を犯す=悪というイメージを表しているため、このキャスティングはかくも絶妙なものとなった。まるで少年が天使、少女が悪魔であるかのように。
だが実際には善と悪だのといったそんな単純な構図は示されない。人を殺さなければ生きていけないバンパイアの悲しさ、好きな人が犯罪者だと知った少年の葛藤。理不尽ないじめに苦しんでいたのに、その理不尽さが結果的に自分を救うことになるという矛盾。その矛盾を受け入れながら人は“大人”になっていくという真実……これは悲しいことなのか、喜ばしいことなのか。
また、その作品力に魅了されたマット・リーヴス監督(『クローバーフィールド HAKAISHA』)によるハリウッドリメイクも決定しているほか、世界各国で80の賞にノミネートされ、60もの賞を受賞した。スウェーデンのスティーヴン・キングとの異名をも持つ原作者が脚本も手がけた異色の傑作。少年役も少女役も本作が映画初出演という。その彼らの繊細かつ大胆な立ち居振る舞いは、少年少女だったことがあるすべての人の心を打つだろう。
ぼくのエリ 200歳の少女(DVD)
原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
出演:カーレ・ヘーデブラント /リーナ・レアンデション /ペール・ラグナル/ヘンリック・ダール
配給:ショウゲート
ジャンル:洋画
公式サイト:http://www.bokueli.com/
© EFTI_Hoyte van Hoytema
Tweet |