シネマピア
東京島
電気も水道もガスも、お金さえあれば自由に使うことのできる文明社会で暮らしている現代人。だが、ひとたびその文明の利器を奪われ、無人島に漂着したら? 人間の本性が剥きだしになるこのシチュエーションで、お世辞にもピチピチとは言えないオバサンが多数の男たちと“逆ハーレム状態”で暮らすことの歓喜と悲哀をコミカルに描いたのが本作だ。
夫婦ふたり旅の途中で嵐に遭い、太平洋に浮かぶ無人島に漂着した清子と隆。サバイバル能力を発揮して生き抜こうとする清子に対し、夫の隆は定年退職後の濡れ落ち葉よろしく何もしようとせず、日に日に衰弱していく。そんなある日、16人の若いフリーターの男たちが漂着し、かと思えば密航に失敗した6人の中国人も清子たちの前に現れる。やがて隆が事故か他殺かわからぬ死を遂げ、清子は島でただひとりの女性として女王のように君臨し始めるが……。
年をとるというのは悲しいものだ。容姿の衰えもさることながら、性格が図太い“オバサン”になっていく。人の心を傷つけようが迷惑をかけようが知ったこっちゃなく、自分が快適に生きるためなら、およそ犯罪以外ならばモラルやマナーに反していても罪悪感なしにやってのけてしまう。清子のパッと見は、腹も出ていず貧乳でもなくスレンダーでそこそこのナイスバディ。顔も超美人とまではいかないがことさらのブスでもなく、エルメスのスカーフを華麗に身につけ、無人島にいながらもなんとな?く上品な雰囲気を(かろうじて)漂わせてはいる。だが、その年齢は残念なオバサンだ。
物語の前半ではそんな“オバサン”な性格とは程遠かった清子も、だんだんとオバサン度が露呈し始め、「生きる」ためにはどんな汚い手も使いこなしてしまうようになって行く。サバイバル生活において真の意味で必要なのは、火の起こし方でも食べ物の調達の仕方でもなく、いかに人間性を捨て去って動物になりきることができるか、なのだ。旗として使われた一枚のスカーフ。そこに配された色とりどりの様々な色は、そんな清子のカメレオン性を象徴しているのだ。
また、日本人男子が争いを好まずに秩序社会を作り出そうと画策し、ある意味ゆる?く「現実逃避」をする様だったり、昨今ワイドショーでのネタにも挙げられる中国人観光客のように、たくましい生命力で自らの目標へと突っ走る中国人だったり、そうした現代への風刺も効いていて小気味よい。清子に罵倒を浴びせ、現実を突きつける窪塚の怪演ぶりも見ものだ。
このしたたかなワガママオバサンのやり方に賛同できるか否か。スクリーンの前で椅子に座り、クーラーの効いた劇場で冷たいドリンクを口にしながらなら、要所要所において「それはナシだよ人として」とダメ出しもできよう。だが、自分があの不自由な無人島に本当に置き去りにされたなら、聖人でもない限り似たような行動をとるのではないだろうか。観客の人間性をはかるリトマス試験紙のような本作。ぜひ、原作とあわせてご堪能あれ。
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東京島(単行本)
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原作:桐野夏生『東京島』
監督:篠崎誠
脚本:相沢友子
出演:木村多江 /窪塚洋介 /福士誠治/鶴見辰吾
配給:ギャガ
ジャンル:邦画
公式サイト:http://tokyo-jima.gaga.ne.jp/index.html
© 2010「東京島」フィルムパートナーズ
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