シネマピア
ノーウェア・ボーイ ひとりぼっちのあいつ
「ジョン・レノンがいなければ今の私はない」
そう言っても過言ではないだろう……おそらくだけど、この世界にそんな人は星の数ほどいる。すべてを彼から学んだ、そして今でも……。
この映画はそんな彼が、いかにして『ビートルジョン』になっていったのかの物語である。
私はビートルズファンになってから、それはそれはたくさんのビートルズ本を読んだ。伝記、楽曲解説、写真集、語録。ビートルズ誕生前の物語もかなり読んだ。
この映画の内容、それは言ってしまえばすべて知っていることだ。
全編を観終わっての感想は、この映画は「ジョン・レノンという人物」の伝記映画の枠を飛び越えていると言える。誰もが思春期に経験する親との葛藤、自分自身の発見、人生の目標。ただ、ちょっと普通とは違った環境。この映画は「ビートルズというフィルター」をはずしても立派に映画として成立している。
監督は、現代アート界で活躍する女流芸術家(写真家)、サム・テイラー=ウッド。本作が長編映画初監督作品。プライベートでは、23歳年下である本作主演のアーロン・ジョンソンと婚約、今年7月に娘が誕生ということでも話題になった
母ジュリア役のアンヌ=マリー・ダフ、ミミ伯母さん役のクリスティン・スコット・トーマス、このふたりの内面から湧き出る、愛と哀しみの演技がこの作品の見どころ。
無条件に愛されることを許されなかった少年の物語として充分に見応えがある。
今回、あえてストーリーの細部は割愛する。ビートルズを知らない世代でも楽しめる青春映画であるのは間違いない。
★
さて、ここからはマニアックにビートルズファン向けのみどころですよ!
まずは、オープニングの映像とサウンド。ビートルズ初主演映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 』のオープニングを連想させ、思わずニヤリとしてしまった。この映画、期待出来るぞっと思わせるシーンである。
そして、ファンならではのみどころは、楽器、ファッション、建物、部屋、小道具など、至るところで緻密に再現されている。これホント、完璧です。
いくつか紹介しましょう。
ジョンが最初に結成したバンド(クオリーメン )のファンの間では有名な、1957年7月6日セント・ピーターズ教会での写真。宇宙の始まりがビックバンなら、現代ロックの始まりはこの日この場所この写真。
この写真のシーン、衣装から髪型、もちろん楽器まで完璧。この演奏を撮影する(上記の写真)カメラマンのシーンまで再現されているのは、カメラマン出身の監督ならではか。またまた、ニヤリである。
ステージで演奏されるは、ジョンがジュリアにバンジョーで教わった曲『Maggie Mae』。
ポールはクラスメイトにクオリーメンを観に誘われこの教会へ。その後ジョンに紹介されたポールが演奏した曲が『Twenty Flight Rock』。ポール役のトーマス・ブローディ・サングスターのこの演奏シーンはファンから見てもあっぱれ。
これまでの伝記等で書かれている、ポールがジョンにギターを教えるシーンでは、ジョンが演奏する『Gallotone Champion』のギターと、ポールの演奏する『Zenith Model 17』のギターの音色が、非常に生っぽく、実際にこのように演奏していたのではないかと思ってしまう。
こんな当時が目に浮かぶような再現の中で、さらに完璧と言えるのが『In Spite Of All The Danger』の演奏シーン。
この曲はリバプールの貸しスタジオ『フィリップス・サウンド・レコーディング・サービス』で初めて自主制作レコーディングされた曲(ポール作)で、いまでは「ザ・ビートルズ・アンソロジー1 」に収録曲されている。聴き比べてみるとわかるが、かなりな完コピぶり。途中のギターソロの音などは涙ものです。
また、ジョンのリバプール訛りや仕草、ストロベリーフィールドもチラっと出てききます。その辺りを興味深く見守りつつ、エンディング……。
エンディングの曲は条件反射的に泣いてしまいます。泣く場面ではないですけど…。
いや、この曲は泣きます。
最初から最後まで、ファンには完璧なリバプールが堪能できると思います。
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今回はおまけも書いちゃいます!
<おまけその1・クオリーメン>
クオリーメンは、1997年に元メンバーのピート・ショットン(ジョンが最初にメンバーにさそった人物)、エリック・グリフィス、ロッド・デイビス、レン・ギャリー、コリン・ハントンが集まり再結成され、40年前にジョンとポールが出会った7月6日、場所も同じセント・ピーターズ教会でライブが行なわれた。ポールからも正式な再結成へのメッセージが届けられたが……前身なのにビートルズのメンバーがいない再結成ってかなり凄い(笑)。
2003年には来日もしており、現在でも活動中(らしい)。TV番組で映像を観たことがあるが、前記したかの有名な写真をブロマイドにしてサインもしていました。「ビートルズの曲は演奏しないんですか?」の質問に。「コードが複雑で曲が難しい」と語っていました。それもなんかスゴイ(笑)。
<おまけその2・ビートルズをモチーフにしたおすすめ映画>
『抱きしめたい 』(1978年)
ロバート・ゼメキスの初監督作品。1964年、ニューヨークにやって来たビートルズを見に行こうと四苦八苦するニュージャージーの若者のラブコメディ。ラストシーンが痛快です!
『バック・ビート 』(1994年)
ビートルズ初期メンバー、スチュアート・サトクリフの生涯を描いたハンブルク時代の作品。『ノーウェア・ボーイ』のその後といった感じ。クールでスタイリッユな映画だ。
サウンドトラックの『BackBeat Band 』が当時話題になり、サーストン・ムーア(ギター/ソニック・ユース)、マイク・ミルズ(ベース/R.E.M.)、デイヴ・グロール(ドラム/ニルヴァーナ)らの演奏は必聴!
ノーウェア・ボーイ ひとりぼっちのあいつ オリジナル・サウンドトラック
ジョン・レノン生誕70周年!坂崎幸之助&杉真理、当然のマニアックトーク!?
監督:サム・テイラー=ウッド
脚本:マット・グリーンハルシュ
出演:アーロン・ジョンソン /クリスティン・スコット・トーマス /アンヌ=マリー・ダフ
配給:ギャガ
ジャンル:洋画
公式サイト:http://nowhereboy.gaga.ne.jp/
© 2009 Lennon Films Limited Channel Four Television Corporation and UK Film Council.
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エンタメ : シネマピア 記:尾崎 康元(asobist編集部) 2010 / 10 / 12