シネマピア
リミット
目が覚めたら土中深く、一人きりで棺桶の中。手元には充電切れ間近の携帯電話、ライター、懐中電灯……。チリ鉱山の落盤事故での生存者のニュースは世界中に希望を与えたが、本作で主人公が置かれた環境も彼らに酷似している。否、もっと悲惨である。
イラクで働いていたアメリカ人のトラック運転手、ポール・コンロイ。彼が目を覚ますと、そこは真っ暗闇の棺桶の中だった。蓋を開けようと試みるが、どうやら土中深く埋まっているらしくビクともしない。なんとか救出してもらおうと、手元にあった見知らぬ携帯電話で様々なところに電話をかけ、助けを求めるが……。
まず、コピーには「残り90分の酸素」とあるが、それを示唆する描写は出てこない。したがって、この事項は前知識として鑑賞前に念頭に置いておいたほうがベターだ。
ただ、そんな瑣末な事柄を補って余りあるほど、本作は素晴らしい出来栄えとなっている。なにせ、画面に現れる登場人物は主人公のみで、映されるシーンも棺桶の中のみ。主人公による回想シーンや妄想シーンも一切なく、電話の向こうから聞こえるのも「声の出演」のみ。にも関わらず、その中にどろどろとした人間関係のドラマや、組織の底辺に属する一会社員としての悲哀、家族愛、ぞっとするようなホラー要素、イラク戦争への皮肉、そして反戦そのものさえも盛り込んでいるのだ。棺桶の中で一人の人間しか見ていないはずなのに、一瞬たりとも飽きさせない作りになっているのだ。
そんなシチュエーションだから、当初は5000ドルの低予算作品として脚本家が脚本を書いたものだったが、あれよあれよとその脚本はハリウッドへ届き、主役は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』にも出演するライアン・レイノルズに決まり、予算も200万ドルに跳ね上がった。棺桶も計7つ使用され、ワン・シチュエーションながらも彩りの深い作品に仕上がっている。
ネタ切れと言われて久しい映画業界だが、アイデア次第でこんなにも見応えのある作品を世に送り出してくれる。ハリウッドもまだまだ捨てたものじゃない……と心から思わせてくれる1本。
リミット コレクターズ・エディション(Blu-ray)
監督:ロドリゴ・コルテス
脚本:クリス・スパーリング
出演:ライアン・レイノルズ
配給:ギャガ
ジャンル:洋画
公式サイト:http://limit.gaga.ne.jp/
© 2009 Versus Entertaiment S. L.
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