シネマピア
ソーシャル・ネットワーク
このレビューをご覧になっているネットユーザーであれば、SNS=ソーシャル・ネットワーキング・サービスのひとつやふたつ、多い方ではいくつも加入していることだろう。日本では『mixi』が圧倒的なシェアを誇るが、全世界でのダントツ首位は『Facebook』。本作は、ハーバード大学寮の一室から19歳でFacebookを立ち上げ、23歳で世界最年少の億万長者となったマーク・ザッカーバーグの成功と挫折を赤裸々に描きあげた傑作だ。
2003年、10月。高校時代から腕利きのハッカーだったマーク・ザッカーバーグは今、ハーバード大学コンピュータサイエンス専攻2年生。オタクゆえにコミュニケーション能力が決定的に欠如している彼は、無神経な言葉を発して恋人のエリカを激怒させ、別れを告げられてしまう。失恋の痛みを紛らわすために彼が始めたのは、ハーバード中の寮の名簿をハッキングし、女子学生たちの写真を並べてランク付けするサイトを作ることだった……。
脚本のアーロン・ソーキンは「SNSやインターネットでは、嫌いな自分を作り変えて理想の自分になれる」と言う。着ている服がフォーマルならそれなりの振る舞いを、カジュアルならフランクな物言いをしてしまったり、また、何かものを書く際にフォントや使うソフトが違うだけで書く内容が微妙に違ってきそうに思えるのと同様、使っているSNSのシステムが違うだけで、自分という人間の表現方法がおのずと異なってくる。意識して違う自分を演じようとせずとも、だ。電話やメールのように伝達手段でもあるSNSだが、自分の画像や自己紹介文をも掲示できるこのシステムは、より詳細に複雑に自分を見せることができる。そこに、だまし絵のようにあたかも自分であるかのように自分でないものを紛れ込ませることができるのだ。
そんな現代特有の空気感を、監督のデヴィッド・フィンチャーが見事に描き出す。映像の魔術師との異名を持つ彼だが、実は批評家からの評価が高い作品は映像技術を駆使したタイプではなく、『ゾディアック』しかり本作しかり、役者の演技を通して人間を徹底的に描いたタイプの方だ。彼は本作で1シーンに対し200ものテイクを重ね、役者が「演技をしている」という片鱗を一切出さず、まるで観客が登場人物の日常を覗き見ているかのような、究極に自然な「演技」をさせることに成功した。あたかも舞台での演技を見るかのような違和感が、本作ではまったくないのである。これは映画としては「完璧」の域に到達しているだろう。それほどまでのテイクで、妥協せずに完璧を目指したからこそ成し遂げられた偉業である。
本作では音楽も特筆すべき点だ。権威ある各賞に軒並みノミネート、受賞している本作だが、音楽も例外ではなく、各賞を続々と受賞している。冒頭、マークが寮に戻る際の曲はマークの心情を見事に表しており、これから始まる物語が尋常でない完成度で観る者を圧倒させることを予感させており、思わずサントラ盤が欲しくなってしまう。
製作総指揮は、あのケヴィン・スペイシー。映画を骨の髄まで知り尽くした彼らが作り上げたからこそ、ここまでの作品が出来上がったのだろう。
かくいう私も、mixiやマイスペ、ツイッター、そして本作のFacebookもユニット名義ではあるが実はすでに始めている。だが、まだまだFacebookが主流でない日本では、本作公式サイトからの口コミも「140文字の余韻」としてFacebookではなくツイッターからの投稿を募っている。日本ではケータイ市場もガラパゴス化していることだし、いくら映画としての作品力が高くてもそれが即Facebookの勢力拡大には繋がらないだろう。本作ではマークを良い人間に仕立て上げてFacebookの宣伝をしているわけではなく、アスペルガー症候群の疑いのある彼を如実に描いている点では、宣伝としてはむしろ逆効果を生むかもしれない。むしろ、あからさまな宣伝を好まない日本では、「Facebookではなくツイッターでの口コミを促す宣伝」程度のほうが好感を持たれるのかもしれないし、今の時点でFacebookでの宣伝をしたとしてもさほどの効果は見込めないのだろう。
本家 Facebookの日本での普及率はさておき、 その完成度の高さから各賞を総なめにしている本作。ぜひその映画としての実力を劇場でご確認いただきたい。
ソーシャル・ネットワーク(DVD)
facebook(単行本)
原作:ベン・メズリック『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:アーロン・ソーキン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ /アンドリュー・ガーフィールド /ジャスティン・ティンバーレイク/ルーニー・マーラ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
ジャンル:洋画
公式サイト:http://www.socialnetwork-movie.jp/
© ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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