シネマピア
英国王のスピーチ
誰にでも欠点はある。それが生まれながらにして、そしてちょっとやそっとの努力で直らないもので、ましてや自身の「仕事」に直結するものであったなら……。そんな深刻な悩みを持った一国の王太子の姿、そしてそれを支えるひとりの「友人」の姿を、ときには深刻にときにはたっぷりのユーモアを交えて赤裸々に描いたのが本作だ。
ジョージ6世(コリン・ファース)は幼少から吃音のコンプレックスに悩まされていた。そんな夫を献身的に支える妻は、スピーチ矯正専門家のライオネル(ジェフリー・ラッシュ)のもとに夫を連れて行く。だが、ライオネルのやり方は何もかもが型破りで、ジョージ6世を困惑させる……。
たとえ国の頂点である王室に生まれようと、悩みの深さは一般人と変わらない。
いや、転職も家出もできるはずもないからその苦悩はただの平民よりもずっと根深い。ある意味、まるで塀の中で暮らすかのような彼にひとりの人間として接し、王太子だからといって決して特別扱いしないライオネルに、ジョージ6世は徐々に心を開いていく。
ライオネルはライオネルで実はその仕事にある事情から負い目を感じている。この男同士の悩みと悩みが交差し、えも言われぬドラマを構築していくさまは圧巻だ。出自を重んじてばかりいる周囲との軋轢に、立場を超えた友情と妻の献身的な愛に支えられ、ひとりの男がようやく仕事をこなせるようになっていく姿を細やかな台詞使いで綴る本作は、組織の中で苦しむすべての社会人諸氏の共感を得てやまないだろう。
公開日が2月26日(土)、だがアカデミー賞発表は日本時間で2月28日(月)。公開前にこのレビューを書くか、それともアカデミー賞発表後に書くか迷ったのだが、せっかくなので賞発表後に書かせていただこうか……と決めて発表を待った。『ソーシャル・ネットワーク』と一騎打ちかと囁かれていた本作だが、結果、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞という映画の根幹を占める部分の賞を総なめにした。人間のダークな一面を抉る『ソーシャル〜』と、一転、人生の希望を照らし出す本作。賞の多寡が作品の良し悪しではないが、王道中の王道を極める作品創りが難しい昨今、それを見事に成し遂げた本作。観る人の心に必ずや希望の灯をともすことだろう。
英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(Blu-ray)
トークイベントに東国原英夫登場!
監督:トム・フーパー
脚本:デヴィッド・サイドラー
出演:コリン・ファース/ヘレナ・ボナム=カーター/ジェフリー・ラッシュ
配給:ギャガ
ジャンル:洋画
公式サイト:http://kingsspeech.gaga.ne.jp
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