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【映画レビュー】ワイルド・ローズ

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歌手としての成功と、母親業との間で揺れ動くシングルマザーのローズ。彼女が選ぶ人生の道筋は、そして彼女に拓ける運命とは……? 主題歌「Glasgow (No Place Like Home)」〈「グラスゴー(どこより故郷が一番)」〉が、ハリウッド批評家協会賞・主題歌賞、放送映画批評家協会賞・歌曲賞等ほか、数々のレースで音楽賞を席巻。レネー・ゼルウィガー共演の『ジュディ 虹の彼方に』でも強烈な印象を残したジェシー・バックリーがローズ役を演じ、そして熱唱し、鑑賞後もずっと尾を引く余韻を与えてくれる。

スコットランド、グラスゴー。罪を犯し、刑期を終えて出所した23歳のローズ。彼女は幼い姉弟を持つシングルマザーだ。カントリーミュージックの聖地、アメリカのナッシュビルで歌手としての成功を切望するローズだが、貧困層に生まれ育った彼女には渡航費用を稼ぐことさえ夢のまた夢。生活のためにハウスクリーニングのバイトをし始めるが、元来の性格から真面目に働くことすらままならず……。

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まず、本作はよくありがちな「夢を犠牲にして家族を大切にしていたら運が拓けて夢が叶いました」系では始まらない。望まずに産んだ子だからかどうかローズはのっけから育児放棄気味だし、刑期を終えたといっても何も反省していないし、なんなら「またすぐ何かやらかして刑務所にぶち込まれそう」系だ。ちゃんとしているのに不遇な人が神様のような人に助けられる物語ではなく、ロクでもなさがブッ飛んでる人のお話なのだ。といっても、世の中一般的なアーティストはブッ飛んでるくらいがフツーなのだが。

そんなメチャクチャなローズだが、彼女の歌声と、カントリーミュージックへの愛だけは絶品。何か問題が起こっても、彼女の歌にだけは誰もが心を奪われる。よく巷で「才能と人格は別か?」の論争があり、別じゃない派は「作品を嫌いにならないよう人格もそれなりであって欲しい」と言い、別だ派は「作品さえ良ければ作者が犯罪者でも構わない」と言う。ローズの場合は圧倒的に後者なわけだ。

だが、そうは問屋が卸さない。長らく願い続けていた大きなチャンスを目の前に、自らが今までなしてきた悪行、ついてきた(ローズにとっては小さかったはずの)嘘、そうした因果が応報となって襲い掛かる。果たしてローズは目を覚まして改心するのか、それとも今までどおり「才能」を免罪符にしてすべてを打ち負かして前に進むのか、それとも因果応報のままに夢を諦め、子供のために「普通の良き母親」として生きるのか。物語の岐路は圧巻だ。

だが惜しむらくは、ローズがラストに至るまでの間が全く描かれていないこと。彼女がどうやってラストにたどり着き、あの歌を歌うまでに至ったのかは、想像で補完するしかない。素直な観客なら、キングヌーの『白日』の歌詞のように善意に想像してその空白を穴埋めするだろう。が、現実的な観客は「人間はそう簡単に変わらないから、また才能を免罪符にあれやこれやした結果がこれで……」と、監督の意図しない想像をするかもしれない。 私はむしろその空白をこそ、オセロが引っくり返される場面、または引っくり返されずにドロドロしたままの何かをこそを観たかったのだが。だがしかし、製作者側から「観客のご想像におまかせします」と言われればそれまでなのだが。

すでに本国イギリスでは2018に公開され、各誌で絶賛されている本作。ここまで評価が高い理由は、観客の願望を投影しているからというのもあるだろう。人間誰しも聖人ではない。程度の差はあれど、善からぬことを1つもせずに生きてきた人はいないはずだ。その罪が赦されること。または赦されずとも、罪を抱えたままでも、とにかくどんな形であれ幸せを手に入れること。幸せの形は自分の頭で思い描いて決めるものではなく、様々な形があるのだということ。それが支持の理由のひとつなのだろう。

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監督:トム・ハーパー
脚本:ニコール・テイラー
出演:ジェシー・バックリー 、ジュリー・ウォルターズ、ソフィー・オコネドー
配給:ショウゲート
公開:6月26日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト:https://cinerack.jp/wildrose/ 

© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018

 


記:林田久美子  2020 / 06 / 23











エンタメ シネマピア   記:  2020 / 06 / 23

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