シネマピア
【映画レビュー】ハニーボーイ
ハリウッドのスター子役として活躍する12歳の少年、そのマネージャーは前科者の父。ステージパパとして我が物顔で振る舞う父と、傷つけられながらも父を愛してやまない少年との壮絶な物語! 『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフの自伝を、当時アルコールとの決別のためにリハビリ中だったラブーフ自らが書き、本作で脚本家デビュー。ラブーフと親友でもある監督のアルマ・ハレル女史は、ポン・ジュノ監督から「2020年代に注目すべき気鋭監督20人」の1人として名前を挙げられた新進気鋭の監督。サンダンス映画祭ドラマ部門・審査員特別賞受賞、トロント国際映画祭・正式出品、ハリウッド映画賞ブレイクスルー脚本賞受賞ほか、各国の映画祭で34ノミネート9受賞という絶大な評価を得た、悲哀と希望のヒューマン・ドラマ。
22歳のオーティス(ルーカス・ヘッジズ)は、ハリウッドで活躍するトップスター。激務に忙殺される日々の中で次第にアルコールに溺れるようになってしまった彼は、ある夜、泥酔状態で交通事故を起こしてしまう。更生施設でPTSDと診断された彼は、治療の一環で自らの子ども時代を振り返る。10年前、12歳ながらも天才子役として多忙な日々を送っていたオーティス(ノア・ジュプ)だが、その私生活はといえば、自分を精神的にも肉体的にも虐待する父親、ジェームズ(シャイア・ラブーフ)とのモーテルでの2人暮らしだった......。
誰にだって親はいる。たとえそれがどんな親であろうとも、血の絆は決して切り離されることはない。オーティスの父親はいわゆる“毒親”だったが、酷い性格の父親に何をされようとも、自分の家に安らぎを求めることができなかったとしても、時に父親に反抗しようとも、オーティスは父親が大好きだった。父親と一緒にいたかった。父親を許し、愛した。それがオーティスの幸せだった。
人間、誰しもが完全ではない。神さまじゃないんだから、完全じゃないのは当たり前だ。自分だって完全じゃない。そしてそれは、自分の親だとて同じこと。自分を“正しく”育てなかったからといって、どうして親を責められよう?
終盤、オーティスの方が父親となり、ジェームズがオーティスの子どもとなったかのような、親子関係が逆転したかのようなシーン。自分の傷を自分で癒した(または癒している最中の)青年は、傷だらけの父親のその傷口を、やさしく包んであげる。子どもの自分が、まるで親かのように。
無償の愛は親から子へとだけ注がれるのではない。子もまた、親に無償の愛を注ぐ。血の絆が、決して切れない絆が、それをさせるのだ。「出来の悪い子ほど可愛い」と同様、出来の悪い親なら、なおのこと。
当初、青年時代のオーティス役を演じたがっていたラブーフだが、監督はそれを却下し、父親役を演じるようラブーフに告げたという。自分自身に多大な影響を与え、自分の人生そのものを形作り、自分に成功を与え、そして自分の心をズタズタにし、けれど自分を愛してくれた父親。その父親を、ある意味自分の創造主である父親を、ラブーフは演じた。まるで父親自身の傷を、自分のものにするかのように。闇を抱えた父親のその暗い心を、照らしてあげるかのように。
監督:アルマ・ハレル
脚本:シャイア・ラブーフ
出演:ノア・ジュプ(『ワンダー 君は太陽』、『フォードvsフェラーリ』)、シャイア・ラブーフ(『トランスフォーマー』シリーズ、『ウォール・ストリート』)、ルーカス・ヘッジズ(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『スリー・ビルボード』)、FKAツイッグス、ブライオン・バウワーズ、ローラ・サン・ジャコモ
配給:ギャガ
公開:8月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 ほか全国順次公開
公式サイト:https://gaga.ne.jp/honeyboy/
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記:林田久美子 2020 / 08 / 05
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