シネマピア

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

songofthesea_001.jpgアイルランドの神話と魔法、アザラシの妖精、幼い二人の兄弟……美しいモチーフが散りばめられた本作は、第87回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート、アニメ界のアカデミー賞と言われるアニー賞に7部門でノミネート、第28回ヨーロピアン・フィルム・アワードではあの『映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』を抑えて長編アニメ賞受賞といった輝かしい経歴を誇る珠玉の作品。アイルランドの宮崎駿とも称される、若干39歳の新進気鋭の監督の手による、抒情的な現代のおとぎ話だ。

songofthesea_002.jpg海辺の岬の先っぽに建つ灯台の家。幼い少年は、少年の妹をお腹に宿した母から色々なことを聞く。巨人のおとぎ話、アザラシの妖精が歌うと妖精が家に戻れる伝説、美しい言葉で綴られた童謡。妹が産まれることを楽しみにしていた少年だったが、妹を出産した母は海へと姿を消してしまう。母が消えたのは妹のせいだと思い込んでいる少年は、何かと妹に辛く当たってしまう……。

シーンの1つ1つが絵本の1ページ1ページのようで、また、各キャラのしぐさや背景の線のタッチなど、どれを取ってもまさに「神は細部に宿る」作品だ。本作は美しい童話であると同時に、幼い少年がいかにして「お兄ちゃん」になっていくかという成長物語でもある。それぞれの心理描写も見事で、作品を見終えたあともシーンを思い出すと涙が込み上げてくるほどだ。

ただ、全体のストーリーはガッツリ説明的ではないので、本作の根底に流れるアイルランド伝承由来のキーポイントを踏まえてからの鑑賞のほうが、より感動が深まるだろう。例えば、海ではアザラシ、陸では人間の姿をとる妖精はセルキーと呼ばれ、少年の母はこのセルキーだ。母が残したアザラシの毛皮のコートがなければ妹は陸で生きていくことができない。また、母が残した巻貝の笛の音は、海の呪縛から解放されるために必要なアイテムだ。

日本でも『鶴の恩返し』や『羽衣伝説』など、人間ではないものが人間の男の妻となる話が多数ある。こうした「異類婚姻譚=いるいこんいんたん(直近では同タイトルで今年の芥川賞受賞作もある)」は様々な形で世界中に存在しており、いずれにしても動物が人間のために尽くすという設定が多い。なぜ世界中にそうした伝承が多く伝わっているのだろうか。天の者と交わって子孫が産まれたとする『羽衣伝説』系は、その家系の権威づけであろうか。では動物との婚姻は何の象徴だろう。この地球上の動物は必ず何か他の動物や植物を食らってしか生きられず、人間もまたその例に漏れない。他の命を犠牲にするという罪悪感を払拭するために、その行為を正当化したいという無意識が、人間以外の生物はそもそも人間に仕える存在だということにしたい無意識が、それらの童話を作り上げたのかもしれない。



・監督:トム・ムーア
・脚本:ウィル・コリンズ
・声の出演:デヴィッド・ロウル、ブレンダン・グリーソン、リサ・ハニガン、ルーシー・オコンネル
・配給:チャイルド・フィルム、ミラクルヴォイス
・公式サイト:http://songofthesea.jp/
・公開:8/20(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA他全国公開

©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum

 













エンタメ シネマピア   記:  2016 / 08 / 09

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