シネマピア
聲の形
耳の聞こえない転校生、彼女をいじめてしまった男子———。「このマンガがすごい! 2015」でオトコ編第1位に輝き、第19回「手塚治虫文化賞」新生賞にも堂々の受賞となった同名タイトルのベストセラー漫画を、『映画 けいおん!』で日本アカデミー賞優秀賞を獲得した京都アニメーション、通称京アニが映画化した感動ドラマ。
小学6年生の石田将也は、口が悪くてイタズラ好きのガキ大将。ある日、彼のクラスに先天性の聴覚障害を持つ西宮硝子が転校してくる。西宮とのコミュニケーションの取り方が一般人のそれとは違うことから、クラス内に様々な軋轢が生まれ……。
私は映画を観てちょいちょい泣くほうだが、それでも号泣までいく作品はそこまで多くはない。多くても1?2年に一度くらいのペースでしか、そうした作品には巡り合えない。『火垂るの墓』、『わたしを離さないで』、『ランズエンド 闇の孤島』……今パッと思いつくところだとこれぐらいだろうか。その歴代の栄えある号泣リストに、本作は堂々のランクインを果たした。止めようとしても止められないくらい涙があふれてくるシーンがたくさんあったのである。
試写後に映画会社のかたとお話ししたのだが、あとから思えば、私はイヤ?な言い方をしてしまっていた。感想を求められた私は、「いっぱい泣いちゃいました! 『火垂るの墓』が100としたら、本作は80くらい泣きました」と言ってしまったのだ。あくまで私の個人的な涙指数として、あくまで涙の量の比較のためだけに他作品の名を挙げたつもりであり、作品の良しあしを他作品と比較しようだなんてこれっぽっちも思っていなかった(そもそも両作ともジャンルやベクトルが違うので比べる対象ではない)し、『火垂る?』のほうは最後に観てからかなり時間が経っているから自分の中である意味神格化されていて涙量100と記憶されているのかもしれないし、そもそも涙の量を実際に量ったわけでもないし、だからもしかしたら実際には本作のほうが涙量は多かったかもしれないのに、これではなんだか「『火垂る?』の作品力が100点で本作は80点」かのように聞こえてしまう。
即座に「これはあくまでも涙の量としての比較だけで、作品の出来やら良しあしのことではないんです」と訂正すれば良かったものの、話の流れのなかで言い出すタイミングを見つけられず、とうとう言えずじまいで帰路についてしまった。
ほら。そういうことなんだ。言葉の選び方を間違って、伝えるべきことをちゃんと伝えられなくて、あのとき誰かをイヤな気持ちにさせたかもしれなくて、傷つけたかもしれなくて、もしかしてその人はそのことをずっと気にしているかもしれなくて。西宮のような聴覚障害がなかったとしても、本作のように思春期の少年少女ではなく成人した大人であったとしても、コミュニケーションが上手く取れないことはたくさんある。人間は動物と違ってテレパシーが使えず、言葉や仕草や表情でしか相手の気持ちを知ることができない。だから自分の気持ちをちゃんと伝えることや、相手の気持ちを知ることは、たとえ体に障害がなかったとしても100%は難しい。
確かに西宮の持つ障害は、コミュニケーションを取ることの難しさをより顕著に表している。が、コミュニケーションを取る難しさで言ったら石田だって相当だ。本作のフォーカスは「障害の有る無し」ではない。障害を持つ者を登場人物に配することによって、「人間という生き物はいかにコミュニケーションを取ることが難しい存在であるか」をつぶさに描いた作品だ。本作は、そんな私たちすべてに当てはまる映画なのだ。
原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
声の出演:入野自由、早見沙織、松岡茉優
配給:松竹
公開:9月17日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式HP:http://koenokatachi-movie.com
©大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
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