シネマピア
マダム・フローレンス! 夢見るふたり
絶世のオンチが、カーネギーホールを満員にする......? ニューヨークの実在の歌姫を、アカデミー賞3度受賞のメリル・ストリープが演じ、その夫を『ラブ・アクチュアリー』『ノッティングヒルの恋人』でラブコメの帝王の名を欲しいままにするヒュー・グラントが演じるという、まさに豪華な夢の共演、そして狂宴?! 第29回東京国際映画祭の公式オープニング作品にも迎えられた、感動の実話コメディ。
ニューヨーク社交界のトップに立つ富豪、フローレンス・フォスター・ジェンキンス(メリル・ストリープ)。音楽をこよなく愛する彼女は、ソプラノ歌手になる夢の実現のため、日々レッスンに励んでいる。自分が音痴だとは夢にも思っていないフローレンスだが、夫のシンクレア(ヒュー・グラント)はそんな彼女を支え、献身的に尽くしていた。気の弱い......否、心優しいピアニストのコズメ(サイモン・ヘルバーグ)を新たに採用し、その"歌唱力"に磨きをかけるフローレンスだったが......。
マダム演じるメリル、夫のヒュー、ピアニストのサイモン。この3人でのコントのような掛け合いに、何度も何度も笑いがこみあげてくる。メリルとヒューが本作の2大柱であることは紛れもない事実だが、3本目の柱としてのサイモンの存在がまた絶大なのだ。ヘナチョコそうな外見がこの役にピッタリだったのは言うまでもないが、特筆すべきはそのピアノの腕。なんとサイモンは劇中で実際にピアノを弾いているのだ。そう、よくあるアテブリなんかではなく、れっきとしたホンモノなのだ。
本作は『フォックスキャッチャー』の真逆版とでも言おうか。『フォックスキャッチャー』においても、財閥の御曹司は自分のことを全く分かっていなかった。この点では、本作のフローレンスも同様だ。フローレンスもまた、自分の能力を認識する能力を持たない。そしてどちらも同じく富裕層で尽きることない資産があり、それを自分や他人のために湯水のように使う。だが、片や絶望的な不幸の引き金を引き、片やあらゆる人を幸せの渦に巻き込んでいく。この圧倒的な違いは果たして何か。それは人間としての資質が悪に傾いているか、逆に善なる思いで満ち溢れているか、そうした人間の"芯"の部分のpH値が悪性に傾いているか善性に傾いているか、それがそうした結果を引き寄せるのだ。同じ"自分の夢を叶える"という目標があり、それを叶える十分な財力があるにしても、前者はその過程で他人を犠牲にし、後者は周囲に幸せな気分をもたらす。それは人間の芯が悪であるか善であるか、その決定的な違いによるものなのだ。
事実、フローレンスのやることなすことはすべて、常識人のそれとはかけ離れている。にも関わらず、なぜか、そんな彼女の言動を責めようだとか、正そうだとかいう気持ちは微塵も湧いてこない。それどころか、彼女をずっと見守っていてあげたい気持ちにすらなってくる。挙句の果て、クライマックスの頃には涙さえこぼしそうになるのだ。何かとてつもなく美しいものを見たときに感動のあまりに流すような、そんな穢れのない涙を。自分自身の心の汚れをすべて洗い流してくれるような、そんな清らかな涙を。
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ニコラス・マーティン
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、レベッカ・ファーガソン
配給:ギャガ
公式HP:http://gaga.ne.jp/florence
公開:12月1日(木)TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
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