シネマピア

万引き家族

manbiki-kazoku_001.jpg 生活のために万引きを繰り返す家族……カンヌ国際映画祭にて、『誰も知らない』で主演男優賞、『そして父になる』では審査員賞を受賞し、緻密な観察眼で家族の在り方を描き続けてきた是枝裕和監督が、今回満を持して堂々のパルムドールを受賞した渾身の話題作。

東京、下町。高層マンションの隙間に建つボロボロの平屋に住むのは、祖母(樹木希林)、父(リリー・フランキー)、その妻(安藤サクラ)、妻の妹(松岡茉優)、夫婦の息子(城桧吏/じょう・かいり)の四人家族。主な収入源は祖母の年金だが、足りない物資は家族が連携して万引きで補う日々だ。そんな寒い冬のある日、父は団地のベランダに置き去りにされている幼い少女を見かける。少女を不憫に思った父と母は、思いがけない行動に出ようとする……。

manbiki-kazoku_002.jpg 狭い一軒家、雑然と散らかった室内、四角く小さなタイル貼りの風呂場。野菜等の生鮮食料品は高価だからだろう、食事のシーンはカップラーメンやそうめんといった炭水化物がメイン。家族全員で食べるにはあまりに狭いちゃぶ台で、箸を持つ逆の方の手はテーブルの下。海水浴で使うバスタオルも、いかにも安価そうな柄。そうした細部にまで神経を行き渡らせ、「貧困」がスクリーンに表現される。1ミリの隙もなく、「貧困」が家族を包み込んでいる。

だが、この家族には笑いが絶えない。犯罪で生計を立てているとは思えないほど、あたたかな時間が彼らを満たしている。常時あふれる屈託のない笑み。この家族の笑顔の裏で、泣いている人たちが多数いるだろうに。その矛盾を、監督は無言で観客に突きつける。つられて笑う観客に、常時、疑問を投げかけ続ける。果たしてこの家族は絶対悪なのだろうか、と。

「無知は罪なり」とは、ソクラテスの言葉だ。確かに、この家族は無知極まりない。その無知ゆえに様々な罪を犯し、だが無知ゆえにそれを悪びれることもない。罪を罪とは認識していない。欲しいから盗る、必要だから盗る、それだけだ。想像力がないから、その行動の先で誰かが困るだろうとか、そうした何手も先のことは思いつかない。この家族にとって、万引きはただの仕事だ。生きるための狩り、ただそれだけのことだ。

その罪を罪と気づいたとき、人はどうなるのか。善と悪を認識したとき、どうなるのか。ぬるい泥沼でじゃれあっていたあの日々、あの心地よい泥沼を抜け出し、違う世界を見つけたとき、人間という動物は人=ヒトになることができるのか。

物語が進むうち、この家族は物を盗むだけでなく、この物語全体が「盗み」で構成されていることに気付く。それこそが本作の根幹だ。家族とは何か、血縁とは何か、絆とは何か。それを観客に問いかけ続ける。

印象的な音楽は元YMOの細野晴臣。ドップラー効果を連想させるそれは、「気づく前」と「気づいたあと」を表すかのようだ。監督はパルムドールを取ったが、細野も日本アカデミー賞で賞を取るのではないか。少々気が早いが、今から予想しておく。それほど耳に残る音楽だ。



監督・脚本:是枝裕和
出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林
配給:ギャガ
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
公開:6月8日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー(6月2日(土)、3日(日)先行ロードショー)

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
 














エンタメ シネマピア   記:  2018 / 06 / 01

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