シネマピア
たちあがる女
送電線に向けて弓矢を引く中年女。彼女の目的とは、一体……?! アカデミー賞アイスランド代表作品であり、カンヌ国際映画祭で劇作家作曲家協会賞を受賞するほか、数々の映画祭で続々と受賞の報が届いた本作。すでにジョディ・フォスター監督・主演でハリウッドリメイクも決定している、実力あふれる話題作だ。
アイスランドの田舎町でセミプロ合唱団の講師を務める独身の中年女性、ハットラ。だがこれは表向きの顔で、彼女は人知れず環境活動家としても活動していた。地元のアルミニウム工場への破壊工作を続ける日々だったが、ある日、彼女のもとに一通の手紙が届く。彼女の長年の夢である養子申請が受け入れられた知らせだったのだが……。
監督とそしてこの作品の意図するところの環境問題。現実的にはこれには賛否両論あり、一概にこちらが正しいだのあちらが間違いだのとは断ずることはできないだろう。ただ、事実、自分が住んでいる今ここでまさに悪影響が現れようとしているなら、行動せずにはいられないのが人間の生物としての本能だ。彼女はその本能を、ずば抜けた知性と運動能力で補完し、行動に移す。適当な普段着のセーター姿のおばちゃんからは想像できないほどのその能力で。
全編に散りばめられたユーモアと、大小すべての伏線が完璧に回収される心地よさ。深刻なテーマも、こんなふうに大いに楽しめるエンタテインメントとして投げかけられれば、多くの人の目に留まり、そして我々を取り巻く様々な問題を考えさせてくれる契機にもなる。ジョディ・フォスターがリメイクに名乗りをあげたのも充分うなずける、類まれなるクオリティの高さ。あー、早く観たいな、ジョディ・フォスター版。メッチャ似合うだろうな、この役。やってる姿が今から目に浮かぶ。楽しみだ。
そして本作の唯一無二の特徴となっているのが、音楽だ。通常はというか当然のことながら、普通は劇中で流れる音楽はBGM=バックグラウンドミュージックとして、スクリーンのバックで音としてのみ流れている。が、本作は違う。演奏者と楽器がそのままスクリーンに出現し、登場人物の心象風景をよりリアルに表しているのだ。そして時おり彼らは、あたかも実在の人物であるかのような振る舞いまでしてのける。リアルとファンタジーの境目をあえてぼかすことによって、観る者に新鮮な驚きをも与えるのだ。
現実世界を変えるにあたり、過激なやり方は通常は推奨されない。だが、優等生的な、人畜無害な生き方だけでは、人生が行き詰まることだってある。やるときは、やれ。本作は、そんな問いかけを観る者に投げかけてくれる、啓示的な作品なのだ。
監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン『馬々と人間たち』
脚本: オラフル・エギルソン
出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨルンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ
配給:トランスフォーマー
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/tachiagaru/
公開:3月9日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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