シネマピア
パラサイト 半地下の家族
半地下に住む貧しい一家がパラサイト(寄生)する先は、富裕層の大豪邸……!? カンヌ国際映画祭で、堂々の審査員満場一致で最高賞のパルムドールに輝いた本作は、ドラマ、コメディ、サスペンス、アクション等々、映画のジャンルすべてをこの一作に詰め込んだ、お腹いっぱいで動けなくなるくらい大満足の大傑作だ。
事業を立ち上げては失敗、立ち上げては失敗を幾度となく繰り返す父。そんなろくでなしの夫に辛く当たりながら日々の暮らしを適当に切り盛りする母。何度も大学受験に落ち、もはや受験のプロと化している息子。美大を目指すも金がなく予備校にも通えずにいるが、美術関係の実力は天下一品の娘。この一家四人が暮らす半地下住宅は、狭く築年数も古く日当たりも悪くWi-Fiも弱く、いわば底辺の住まいだ。だが一家はこの生活に甘んじているわけではなく、可能ならばここから抜け出したいと常々思っている。そんなある日、息子に「稼げるバイト」の話が持ちかかり……。
ネタバレについては、前々から口を酸っぱくして幾度となく申し上げてきたつもりだ。それは映画や小説といった「見えない先にある驚き」を楽しむ部類のエンターテインメントならば暗黙の了解であり、必然のマナーである。同じ芸術作品でも、音楽や絵画ならばどれだけ言葉を尽くして説明しても一聴一見には敵わない。だが、映画や小説等、時間軸で推移していくストーリーそのものに娯楽としての価値があるジャンルは、ネタバレが作品の命取りなのだ。バラされた、殺されたネタの命は決して戻らない。ネタバレは殺人と同罪といっても過言ではない……くらい、作品の命の根幹を成すものだ。
なぜここでこんなにもネタバレのことを熱く語るのかというと、なんとマスコミ向けの資料に監督本人の言葉で、「絶対にネタバレの記事を書かないで」の旨のお願いが書いてあるのだ。それもカラーA4冊子の1ページ丸々、上から下をすべて使って。普通ならこんなことは言われなくてもネタバレなんてしないのが常識だと思っていたが、ここまで言われなければ分からずに評論したり感想を言ったりする御仁が、昨今は増えてきたということだろうか? 業界の右も左も分からない個人が、ネットで強大な発信力を持ちうる時代になったからだろうか?
従って、本作ではいつも以上にネタバレに留意しながらこのレビューを書くつもりだ。といっても、ここまでで本レビューの半分以上の文字数を使ってしまった感があるにはあるが……。
本作を一言で表すなんていささか強引すぎるが、あえて言わせていただくとするなら、本作は「ドリフ」だ。志村ぁ、後ろ後ろ〜! の、ドリフターズ。そのドリフをドリフのように楽しみまくっていると、唐突に辛辣な現実に突き落とされる。そしてラストのどんでん返しからのどんでん返しからのどんでん返しからの(以下ループ)。韓国だけでなく全世界で厳然としてある格差社会への批判を随所に込め、冒頭で述べた映画ジャンルの全部乗せ、麺マシマシ具マシマシスープマシマシ。もうお腹いっぱいで、消化されるまで立てません。
私とて、生い立ちはこの半地下家族寄りだ。むしろ、高台の豪邸家族よりはそちらの方が人口比率としては多いだろう。そしてこの差は埋まることがない……ように見える、ここからの眺めでいうなら。半地下のそれぞれの家族のように、実力を持ってしてもあの高台にはたどり着くことができない……のだろうか。
本作に何らかの答えがあるわけではない。ただただスクリーンを突き破って出てくる「現実」に、脳天をかち割られる。衝撃で目から飛び出た火花の中に、何かが見えた気がする。本作にグチャグチャにかき回された、心の内臓の血、だっただろうか。
監督:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』『母なる証明』)
脚本:ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
配給:ビターズ・エンド
公開: 2020 年1 月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト:www.parasite-mv.jp
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