シネマピア
【映画レビュー】アナザーラウンド
血中アルコール濃度を0.05%に保てば、仕事でもプライベートでも人生は向上する?! 奇想天外な、仮説を打ち出し、実行した日々の末に訪れた結末とは……。第93回アカデミー賞では監督賞ノミネートと国際映画賞受賞、第73回カンヌ国際映画祭ではオフィシャルセレクションに選出、第78回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞ノミネート、第33回ヨーロッパ映画賞では作品賞ほかで4冠、第74回英国アカデミー賞や第46回セザール賞ほかで外国語映画賞を受賞等々、世界中の映画賞を総なめにした、デンマーク発の話題作。
家族との間に問題を抱えている、高校の歴史教師のマーティン(マッツ・ミケルセン)。いつものように生徒たちに教鞭を執っていたが、そんな理由もあって仕事に身が入らず、授業の内容がお粗末なものになってしまう。そんな折、同僚の教師が提案したのは「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つ」という実験だった……。
酒の失敗。私も成人してからそれなりの年月が経っているので、酒での失敗はまぁ人並みにある。朝起きたら、履いていたはずのスカートがなくなっていたり(一緒に飲んでいた友達がタクシーで私を自宅まで送ってくれた際、その友達に「誰かの上着、持って来ちゃった!」とかなんとか言いながら玄関先でスカートを脱いで渡したそうだ。無論、全く覚えていない)、お店に1つしかない女子トイレを「吐く」とか言いながら長時間占拠したり(結局その時は吐かなかった。ならトイレから出ろ!)、二日酔いどころかそれプラス一日で三日酔いになったり(水を飲んでも吐きそう、目を瞑ると頭の中がグルグルして吐きそうで眠れない、吐きたいといっても胃の中に何も残っておらず何も吐けない……で、さすがにこの時は急性アルコール中毒かと思い、こんな理由で死ぬのもイヤだと医者にでも行こうかと思ったが、立ち上がるのも一苦労、ましてや歩くなんてもってのほかなのでただただ横になっていたが、結果的に丸々二日間という相当の時間を無駄にした)と、失態の実体験を挙げれば10本の指では足りない。
読者の皆様も大なり小なり何かしらヤラカシてしまったご経験はおありかと思うが、そんな皆様にとっても本作は共感を呼びまくる作品となっている。誰もが知る歴史上の偉人が、実はろくでもない私生活を送っていたというエピソードにはなんだか救われたような気になれるし(だが私は何ら偉業を成し遂げてはいないのであくまで“そんな気になれる”だけなのだが)、「酒を飲んで仕事をする」なんて、ちょっと考えればどんなことになるのかすぐ分かりそうなものだが、そこは教師という職業柄、それっぽい理由をつけて真面目(?)に実証実験を遂行するという姿には、「あぁ、教師といえど人間だからな」と妙に親近感が湧くし……といった具合に。だが、酔っ払い映画の代表格『ハングオーバー』シリーズのようにぶっ飛んだ奇想天外なストーリーではなく、意外や意外、全編に渡ってブラックコメディのテイストを貫きつつ、けれどその芯には、大切な人との絆こそが人生のすべてを左右するという、人生の不文律が常時流れている、人生讃歌の大感動作なのだ。
ちなみに、渾身の酔っ払いを演じている俳優たちだが、撮影中は一切飲酒をしていないそうだ。
なお、監督はメタリカのPVを担当したこともあるという新進気鋭の実力派でもあるが、本作の撮影が開始されて4日後に、監督の娘が交通事故で亡くなったという。娘は本作にも出演予定だったそうだ。学校のシーンはその娘の母校で行われ、スクリーンに登場する生徒たちは実際のクラスメートたちだという。
彼女はきっと天国から、撮影の大成功を祈っていただろう。そして今も、興行の大成功を祈っていることだろう。
私も陰ながら、本作の日本での興行が大成功となることを祈っている。久々に胸が熱くなり、「感動とはこういうものだ」ということを思い出させてくれた稀有な作品だからだ。
7月12日からはまた緊急事態宣言が発出されるらしいが、本作公開の頃にはそれらが解除され、読者の皆様が通常通り劇場で本作をご覧いただけるようになっているよう、切に願う次第だ。
監督:トマス・ヴィンターベア(『セレブレーション』、『偽りなき者』)
脚本:トマス・ヴィンターベア&トビアス・リンホルム
出演:マッツ・ミケルセン(『タイタンの戦い』、『偽りなき者』、『ドクター・ストレンジ』、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』)、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネヴィー
配給:クロックワークス
公開:9月3日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
公式サイト:anotherround-movie.com
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記:林田久美子 2021 / 07 / 09
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