シネマピア
【映画レビュー】ダーク・アンド・ウィケッド
人里離れた農場で、家族を待ち受けていた邪悪とは……?! シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀女優賞と撮影賞を、スプラット!フィルム・フェスでは最恐映画賞をそれぞれ受賞。また、映画批評サイトのロッテントマトでは驚異の91%を叩き出した、戦慄と絶望のホラー作。
故郷のテキサスを離れ、それぞれ別々に暮らしていた姉ルイーズと弟マイケル。だが、実家で療養中の父の病状が悪化したため、人里離れた農場へと帰省する。父を看取ろうと懸命に看病生活を送っていた母だったが、せっかく訪れた姉弟に「来るなと言ったのに」と辛辣に言い放つ。姉と弟はやがて、その言葉の真の意味を知ることになる……。
闇(ダーク)と、そして邪悪(ウィケッド)。邪悪なものは闇に潜む。家族思いの姉弟が、死を間近にした親のもとに集う。愛溢れるこの行為とて、"それ"に魅入られてしまったが最後、もう決して抗うことはできない。愛する者を失う悲しみに追い打ちをかけるように、"それ"は襲い来る。誰であっても、そう、例え聖職者であっても、"それ"から逃れることはできない。
ということで、秋の夜長のホラーだ。夏場によくある、派手派手しく分かりやすいホラーとはまた違い、本作の質感は終始、陰鬱が支配する。そして、"それ"のターゲットは自分と、自分の大切な家族だ。愛する者が徐々に"それ"に絡めとられていく恐怖。だが、誰のことも、自分のことすらも守ることができないという絶望。数々の不可解な出来事も、目を覆うような惨劇も、誰にも止めることができない。"それ"は、気まぐれに対象を選び、非力な人間どもをもてあそび、そしてあざ笑う。その笑い顔の、なんとも恐ろしいことよ。
本作に限らず、こうしたホラー作によく登場する"それ"。"それ"はなぜ、人間に危害を与えるようになってしまったのだろう。"それ"はきっと、かつては人間社会に生まれ、育ち、死んでいった魂のなれの果てなのだろう。生前の人生が不幸に終わり、そしてそれを恨みに思い、生きている人間に八つ当たりをする。"それ"は、恐怖に震える人間のことが面白くて面白くてたまらないのだろう。そして怯える人間を散々いたぶった挙句、自らの棲む「闇」の領域に人間を引きずり込む。"それ"にとって、その過程は単なるゲームに過ぎないのだろう。1人、また1人と堕としていくことで、生前の憂さ晴らしをし、自らの留飲を下げているのだろう。
"それ"のターゲットにならずに済む方法。そんなものは果たしてあるのだろうか。十字架を持っていればそれで済むのだろうか。その場所から遠く離れさえすれば、逃げおおせることができるのだろうか。救いのない、底なしの恐怖、そして絶望。本作は実話ではないが、世界中のどこかで、今もこうしたことが密かに起こっているのかもしれない......。
監督・脚本・製作:ブライアン・ベルティノ(『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』)
出演:マリン・アイルランド(『アイリッシュマン』、『最後の追跡』)、マイケル・アボット・Jr(『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』)、ザンダー・バークレイ(『ターミネーター2』、『ガタカ』、『96時間』、『キック・アス』)、ジュリー・オリバー・タッチストーン、マイケル・ザグスト
配給:クロックワークス
公開:11月26日(金) 新宿シネマカリテほか 全国ロードショー
公式サイト:https://klockworx-v.com/dark-wicked/
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記:林田久美子 2021 / 10 / 08
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