シネマピア
【映画レビュー】ヴォイジャー
宇宙船の乗員は30人の子供たちと1人の大人。地球出発から10年後、船の中で起こったこととは……!? 『フォーン・ブース』『マイアミ・バイス』、そして最近では『THE BATMAN-ザ・バットマン-』でのペンギン役で知られるハリウッド重鎮のコリン・ファレル、『レディ・プレイヤー1』の主演を務めたタイ・シェリダン、俳優のジョニー・デップを父に持つリリー=ローズ・デップ、『ダンケルク』のフィオン・ホワイトヘッドら、錚々たる面子。『THE UPSIDE 最強のふたり』『リミットレス』のニール・バーガー監督・脚本で贈る、SFスリラー。
2063年。地球温暖化による飢餓から逃れるため、居住可能な惑星を目指して地球を出発した宇宙船、ヒューマニタス号。航行にかかる期間は86年のため、乗員は訓練を受けた30人の子供たちと、彼らの教官であるリチャード(コリン・ファレル)。順当に進んでいたかのように思われる航行だったが、とある出来事を皮切りにすべてが崩壊へと向かっていく……。
ロッテントマトでもIMDbでも、日本のフィルマークスでも低評価。だが、本作もまた、こうした批評サイトの評価がいかに当てにならないかを証明した作品だ。回りくどい言い方をしてしまったが、本作に星を付けるなら、間違いなく5つ星だ。最近は臆面もなく「面白い」という言葉を多用する私だが、本作もまた、実に面白い。心の底から観て良かったと思える作品だったのだ。低評価を付けている方々は、本作にSFで〜、アクションで〜、ドンパチで〜、といった点を求めていたのだろうか。確かに、そうした派手さは本作にはない。人間の醜さ、尊さに焦点を当てた、極限の心理状態の中で繰り広げられる密室劇だからだ。また、映画を観るスタイルは人それぞれだから人様の鑑賞方法をとやかく言うつもりはないが、本作が何かの過去作に似ていない必要性も、これまたないと思っている。すべての作品は何かしらの過去作に似ている面を持つものが大半だろう。何故なら、映画とは人間そのものを描くものなのだから、描き方の切り口が似ることなどは多々ある。この作品は何々のようだ、かにかにのようだ云云かんぬん、そんな分析めいた視点で、まるで情報を得るかのような観方で映画を観ることは、私はしない。その作品その作品のストーリー展開のみならず、台詞の一言一言、台詞にならない役者の表情等々、それらすべてを瞬きも惜しみながら鑑賞し、没頭している。そして結果、何度も言うがメチャクチャ面白かったのである。
アダムとイヴは、蛇にそそのかされて禁断の果実を口にした。本能とは何か、理性とは何か。極限に置かれた状態で、人間は善を選び取ることかできるのか。それも、人生経験などほとんどない若い青年たちだけの間で。本作は密室劇にも関わらず、世界中の人間の善と悪を表した縮図かのような壮大なスケールをも持つ、類まれな作品だ。トラブル発生からクライマックス、そして顛末。このストーリーそのものが、とあるシーンでとある登場人物が語る「希望」そのものだろう。船内での出来事の起承転結が、新しい惑星で創世記として語り継がれる日を願わずにいられない。
コリン・ファレルといえば『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』が個人的には断トツなのだが、そのファレルもこう語る。「バーガーの脚本の内容がよくまとまっている点や、このストーリーが爆発寸前の圧力鍋のように感じられる点が気に入ったよ。そしてストーリーが本当に爆発してからが、とにかく素晴らしい」と。
是非、劇場でご堪能いただきたい逸品だ。
監督・脚本:ニール・バーガー『ダイバージェント』
出演:タイ・シェリダン『レディ・プレイヤー1』、リリー=ローズ・デップ『プラネタリウム』、フィオン・ホワイトヘッド『ダンケルク』、コリン・ファレル『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
配給:アルバトロス・フィルム
公開:3/25(金)より全国ロードショー
公式サイト:voyager-movie.com
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記:林田久美子 2022 / 02 / 09
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