シネマピア
【映画レビュー】夜を走る
脚本・監督:佐向 大
鉄屑工場で働く、平凡な2人の男。1人は無口で不器用で趣味もない独身男、そしてもう1人は話し上手で世渡り上手で妻子を持つ男。対照的な2人が出くわした、とある1つの事件が2人の人生に影を落とす……。キャストには『万引き家族』の足立智充、『教誨師』やNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の玉置玲央、『ノイズ』『ホテルアイリス』『夕方のおともだち』の菜葉菜、『クローズ ZERO』『新聞記者』の高橋努、テレビドラマ「ドクターホワイト」等で知られ、本作で映画デビューを果たした玉井らん、『セーラー服と機関銃-卒業-』『罪の声』の宇野祥平、「孤独のグルメ」シリーズでお馴染みの松重豊と、日本を代表する実力派俳優が集結。『教誨師』で人の存在論を問うた佐向大監督が、男2人のロードムービーで再び“生きるとは何か”を問う。
東京近郊、地方都市のスクラップ工場。毎日毎日、営業車で取引先を回る秋本(足立智充)は来る日も来る日もたいした成果が上げられず、上司・本郷(高橋努)に怒鳴られる日々。そんな秋本を、要領が良く目上の人間にも物怖じしないバランスのとれた性格の谷口(玉置玲央)がいつも庇っている。そんな代り映えのない日々工場へと、取引先の新人・理沙(玉井らん)が営業にやって来たのだが……
本作の登場人物にはすべて"本質"ともいうべき"裏面"がある。ダブル主演の男2人は勿論のこと、本郷にも、谷口の妻(菜葉菜)にも、工場の事務社員にも、社長にも、取引先の中国人の男にも、表の顔とは正反対の、意外な"本質"の顔がある。その裏面にフォーカスを当て、本作は丁寧に丁寧に歩を進め、各人の本質を暴いていく。
唯一、表も裏もないのが谷口の幼い娘だ。大人ではない子どもの彼女だけが、無垢で光り輝く存在として、大人の嘘を瞬時に見抜き、その光で射抜く。その光で、大人の闇をいっそう浮き彫りにする。
表の顔が昼の顔であるなら、裏の顔はさながら"夜"の顔だ。その"夜"を他人に決して悟られまいと、各人は必死に"走る"。滑稽なほど死に物狂いで、まさにタイトルどおり"夜"を"走"っているのだ。
物語が進むにつれ、秋本の性格は陰気から陽気(狂気とも言う)に変わり、谷口は逆にふさぎ込んでいく。人の性格は簡単には変わらないとよく言われるが、こんな大きな事件のあとでそれは全く当てはまらない。2人の性格はいとも簡単に、真逆に変わっていってしまうのだ。
ラストで示唆される真実。あの人物があんなに必死だったわけは、つまりそういうことか。これが本作の最大の"裏面"であり、漆黒の闇なのだ。明けることのない、深い深い"夜"の部分なのだ。
最後に。坂巻有紗ちゃん、メッチャかわゆす。そんな可愛い彼女にも勿論というかやはりというか、裏はあるのだが。
出演:足立智充、玉置玲央、菜葉菜、高橋努、玉井らん、坂巻有紗、山本ロザ、信太昌之、杉山ひこひこ、あらい汎、潟山セイキ、松永拓野、澤 純子、磯村アメリ、川瀬陽太、宇野祥平、松重 豊
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
公開:5/13(金)よりテアトル新宿、5/27(金)よりユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト:http://mermaidfilms.co.jp/yoruwohashiru/
© 2021『夜を走る』製作委員会
記:林田久美子 2022 / 05 / 09
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