シネマピア
【映画レビュー】『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
監督:竹林亮
「僕たち、同じ1週間を繰り返しています!」タイムループの中に閉じ込められた社員たちが繰り広げる、同じだけど少しずつどこかが違う1週間。主人公の女性社員を演じるのは、『獣道』『KONTORA-コントラ』『鳩の撃退法』でも知られる新進気鋭の若手女優、円井わん。タイムループ脱出の鍵を握る部長役には、お笑い芸人として独特の異才を放ち、音楽や執筆での活動でも多才な個性を発揮しており、俳優としても『苦役列車』(12)で第55 回ブルーリボン賞新人賞受賞経験のある実力派、マキタスポーツ。果たして社員たちは、この1週間から抜け出すことができるのか……?!
とある雑居ビルに居を構える、とある広告代理店のオフィス、とある月曜日の朝。社員たちは、鳩が窓にぶつかる大きな音で目を覚ます。そう、彼らは前日から泊まりこみで仕事をしていたのだ。だが、「この仕事が終わったら、憧れの大手広告代理店に転職する!」との野望を持ちながら働く吉川朱海(円井わん)は、後輩の男性社員2人組から不思議なことを告げられる。自分たち社員は同じ1週間を何度も何度も繰り返している、と……。
読者諸氏の中でも多くの人がデジャビュ(フランス語でdéjà vu)の経験がおありなのではないだろうか。それまで経験したことがないはず、行ったことのない場所なのにも関わらず、以前に同じ経験をしたことがあるように、そこに行ったことがあるように感じる現象である。 私も例に洩れず、何度もその経験がある。素人考えでは、夢で予知夢でも見た断片なのかなぁとか適当なことを思いついたりもしたのだが、日本心理学会によれば、「記憶における類似性認知メカニズムの働き」「脳機能障害」「分離知覚」として解釈できるとのこと。残念ながら、私に予知能力があるわけではなさそうだ。残念。当然か。
歴代のタイムループもの映画は数多く存在する。『恋はデジャ・ブ』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『ハッピー・デス・デイ』等々、どれをとっても名作だ。だが、こうした名作群にはない独自の設定が、本作には備わっている。本作ではタイムループの記憶を社員全員が持っているわけではない。タイムループが時間の始点に戻った時点で、1週間の記憶はリセットされてしまう。だが、とある方法でそのタイムループに気付くことができる。それこそが、本作がドラマたりうる根幹であり、世界観を形作る設定のキモになっているのだ。その過程で紡がれる、主人公をはじめとした登場人物たちの人間的成長。これが本作の主題だ。ドイツのビスマルクの格言、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」を地で行ってストーリーが紡がれているわけだ。
ということは、だ。本作の理論に基づけば、私や読者の皆さんのデジャビュも、もしかしたら何度も繰り返されている「現実」なのかもしれない。心理学では説明のできない「現実」なのかもしれない。運が良ければそれに気づくことができ、それを利用して様々な体験を積み、自分を磨き、いずれ来る(かもしれない)「ループの終わり」を迎えたときに、晴れやかな人生をスタートさせることだってできる(かもしれない)。さて、私や皆さんにとっての「タイムループに気付く方法」とは、これいかに。
『カメラを止めるな!』(18)のしゅはまはるみの演技もまた、凄まじい。日本発の新たな感覚で贈る、コメディ感覚のオフィス・タイムループ・ムービーに、是非とも没入し、味わっていただきたい。
脚本:夏生さえり、竹林亮
出演:円井わん、マキタスポーツ、長村航希、三河悠冴、八木光太郎、高野春樹、島田桃依、池田良、しゅはまはるみ
配給:PARCO
公開:10/14(金)東京・渋谷 シネクイント、大阪・TOHO シネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマ先行公開
10/28(金)より全国にて順次公開
公式サイト:https://mondays-cinema.com/
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記:林田久美子 2022 / 10 / 08
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