シネマピア
【映画レビュー】対峙
監督・脚本:フラン・クランツ (『キャビン』出演)
高校銃乱射事件でそれぞれの息子を失った夫婦。被害者両親と加害者両親との直接の対話……。『キャビン』で俳優として高い評価を受けてきたフラン・クランツが、脚本家、そして監督としてもデビューを飾る本作。出演には、NetflixのTVシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のリード・バーニー、『ヘレディタリー/継承』のアン・ダウド、『ハリー・ポッター』シリーズのルシウス・マルフォイ役で知られるジェイソン・アイザックス、『グーニーズ』や『アナと雪の女王2』で声優を務めたマーサ・プリンプトンら、実力派の重鎮俳優が集結。それぞれの感情と感情が交叉する重い密室劇。世界43映画賞受賞、81部門ノミネート。
アメリカ郊外の、とある小さな教会。こぢんまりとした個室に集まった夫婦2組。テーブルを囲んで座る4人は、互いがどこから来たのか等、当たり障りのない会話を始める。彼らは、高校で起きた銃乱射事件でともに息子を失った、被害者の両親と加害者の両親だった……。
本作は、『キャビン』や『ダークタワー』、『ヴィレッジ』の出演で知られる俳優のフラン・クランツが、初めて脚本・監督を手がけた作品だ。自身も幼い娘を持つ父親であるクランツが、2018年にパークランドの高校で起きた銃乱射事件から着想を得て単独で描き上げた作品だ。
4人もの実力派ベテラン俳優たちが集結する華々しいデビュー作ではあるのだが、その作風に派手さは全くない。本作の中軸は、被害者両親と加害者両親のほぼ4人の台詞だけで構築される密室劇であり、事件の回想シーン等の映画的手法も全くない。だが、この手法には理由がある。監督曰く、そうした手法を取らないことで、俳優たちに「敬意を表したいと思った」のだという。低予算だったからというのも理由のうちの一つだろうが、それより何より、監督自身が俳優でもあるからこそ、この発想が出てきたのだろう。
その監督の意図通り、台詞から連想される架空のその事件や、加害者が抱えていた葛藤、被害者らの無念や人となりが、まるで小説を読んでいるかのように想起されていく。そして、単に対話であるだけの言葉が、各人の表情や感情の動きが、まるで一体の生き物のように動き出し、起承転結を生み出していく。バーニーをして「初めて書いた脚本だなんて、言われなければ絶対にわからない。ディテール、態度や仕草のニュアンス、人間関係の複雑さに驚かされた。ベテランの脚本家ですらなかなか書けないような見事な脚本を、フランはデビュー作でいきなり書いたんだ」とまで言わしめたその脚本力を、観客はまざまざと見せつけられるだろう。ラストに訪れる大きな感情の動きとともに。
監督は言う。「本当の意味でお互いのことを知り、お互いの悲しみと痛みを共有できたならば、赦しは重要なことではなくなるんだ」と。
この両親たちほどではないにせよ、我々観客にも家族が起こした過ち、家族が被った被害というものは少なからずあるだろう。そのことに対してどう立ち向かえばいいのか、どう感情を"対峙"させればいいのか。それを、心の奥底を何度も何度も刺しながら問うてくれる深い深い作品だ。
出演:リード・バーニー(TVシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」)、アン・ダウド(『ヘレディタリー/継承』)、ジェイソン・アイザックス(『ハリー・ポッター』シリーズ)、マーサ・プリンプトン(『アナと雪の女王2』)
配給:トランスフォーマー
公開:2023年2月10日(金) TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/taiji/
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記:林田久美子 2022 / 12 / 09
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