シネマピア
【映画レビュー】VESPER/ヴェスパー
監督:クリスティーナ・ブオジーテ、ブルーノ・サンペル
荒廃した地球を、少女の英知と希望が救う……! ティム・バートンの『ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち』、アカデミー賞受賞『博士と彼女のセオリー』での演技で各層から絶大な支持を受けるラフィエラ・チャップマンが、そのイノセントかつ中性的な風貌で本作の世界観を構築する。他、『シャーロック・ホームズ』、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のエディ・マーサンや、『バットマン・ビギンズ』、『ハンニバル・ライジング』のリチャード・ブレイクら実力派俳優ががっちりと脇を固める本作。現代の我々の生活の延長線上に起こりうるかもしれない静かな恐怖を、壮大な美しさで見せてくれるSFダーク・ファンタジー。
遠い未来。遺伝子組み換え技術により植物が異様な変化を遂げ、十分な食物が得られなくなってしまった地球。一部の富裕層のみが城塞都市で優雅に暮らす中、貧困層は植物の脅威にさらされる危険な“外の世界”で、僅かな資源を奪い合いながら飢えをしのいで暮らしていた。そんな“外の世界”の住人である13歳の少女・ヴェスパーは、寝たきりの父親とつましく暮らす日々。そんなある日、ヴェスパーは森の中で倒れている女性・カメリアを発見する。カメリアは、ヴェスパーが憧れてやまないあの城塞都市の住人だったのだ……。
壮大なスケールと圧巻のVFXで描かれる未来の地球。だが、残念ながらその地球は“壊れて”いる。本作での地球が壊れているさまは、リアルな描写と質感で観る者の胸に迫る。食糧危機にあるのは本作で描かれている未来だけではなく、実は我々が今直面している現代もまた実はその脅威にさらされているのだが……と言っても飽食のこの日本という国に住んでいるとその実感は湧かない。が、FAOが昆虫食を推奨し、無印良品でもコオロギチョコやコオロギせんべいが普通に、ごくごく普通に販売されているわけで、本作の食事風景などはそういうきめ細やかなディテールを丁寧に丁寧に描いている。(筆者は虫が大っっ嫌いなので、そのシーンの時には「うぇぇぇぇ気持ち悪りぃ」とついつい声が漏れてしまったわけだが)
“壊れて”いる地球を少女が再生していく作品は数多くある。『風の谷のナウシカ』もまたその中の1つではあるのだが、本作のとあるシーンでナウシカを思い出したのは私だけではないはずだ。最も、あんなふうに地球が壊れたのなら、地球を救うためにたどり着く先はきっとあの方法しかないのだろう。
本作は壮大なSFではあるのだが、主軸はヴェスパーとカメリアとの関係性を描いた人間ドラマだ。富裕層と貧困層のあからさまな差別が本作では描かれるが、実はその2つの階級以外にも、もう1つの階級が存在する。ヴェスパーたちが苦しい日々を送るのと同様に、カメリアもまた、重大な秘密を抱えているのだ。階級によりあらわになる、人間の本質。その醜さを、等身大の我々観客が実感できるよう、本作は丁寧に示してくれている。そのあたりも、本作がロッテントマトで91%の高評価を叩きだした理由なのだろう。
脚本:ブルーノ・サンペル、クリスティーナ・ブオジーテ、ブライアン・クラーク
出演:ラフィエラ・チャップマン、エディ・マーサン、ロージー・マキューアン、リチャード・ブレイク
配給:クロックワークス
公開:2024年1月19日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式サイト:https://klockworx-v.com/vesper/
© 2022 Vesper - Natrix Natrix, Rumble Fish Productions, 10.80 Films, EV.L Prod
記:林田久美子 2023 / 12 / 09
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