シネマピア
【映画レビュー】ザ・タワー
建物の外が突然、暗闇に覆われた……!? そのビルから出たが最後、どんな物体も人間の体も何もかも、消え失せてしまう! ジェラルメール国際ファンタスティック映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭など世界の名だたる映画祭への出品を果たし、高い評価を受けた本作。SF設定の中で繰り広げられる、フランス発の密室劇。
フランスのとある団地。様々な人種が住むそのビルに住んでいた住人たちは、窓や入口の外が“闇”で覆われていることに気付く。“闇”に投げ入れかれた物体は消滅し、物はおろか人体ですら“闇”に出た部分だけが消えてなくなってしまう。テレビもラジオも携帯電話の電波も途切れ、外界と一切の接触を断たれた住人たちは生き残るために卑劣な手段をも厭わなくなり……。
設定はSFなのだが、実際のところSF的な描写はほぼない。人種差別ならアメリカにも引けを取らないくらい酷いフランスだが(あの長身イケメンGACKTですら、肌の色が黄色いというだけでフランスのカフェテリアで差別を受けた話が有名なほど。最近ではアメリカ人のロバート・ダウニー・ジュニアやエマ・ストーンによるアカデミー賞でのアジア人差別騒動もあったが、アメリカに負けず劣らずフランスの人種差別も酷いらしい)、そのフランスで製作された本作の主題は人種間の対立だ。白人・黒人・アジア人の三つ巴の中、個人個人のそれぞれの事情が、それぞれの言い分が、それぞれの我儘が、荒んでいく精神とともに描写される。極限に於いては誰もが自分を救うことだけを考える。人間の醜さが、あたかもそれが本質であるかのように闊歩し、スクリーンを支配する。閉ざされた小さな“国”は、平静を装いながら人間の尊厳を堂々と踏みにじっていく。さながら、それが最初から当たり前だったかのように。
う〜ん、なのだが……、ネタバレになるといけないので深い言及は避けるが、食材豊富なスーパーならまだしも、単に普通の団地で、いくらなんでも「5ヶ月」は無理があるかな〜とか、そんなに期間が経っているのに栄養失調や他の病気に罹る人が少ないのも現実感に欠けるかな〜とか、重箱の隅っぽく観るならいくらでも綻びが出てきて作品世界に没頭できなくなるのだが、そこは主題とはまた違う側面なので、大目に見るのが吉かな、と。細部設定が「あれ?」な作品は他にも山ほどありますしね。ストーリーの重大要素なので気にはなるが、そこは大目に大目に、大目に見なければ次に進めない。
ラスト、こんな終わり方を誰が想像しただろう。だが現実とはそういうものだ。すべてがドラマチックに、勧善懲悪で済むわけではない。この部分は本当に、無慈悲なほどリアリスティックだ。救いなどどこにもない。
監督・脚本:ギョーム・ニクルー
出演:アンジェレ・マック、ハティック、アーメド・アブデル・ラウィ
配給:クロックワークス
公開:4月12日(金)よりシネマート新宿ほかにてロードショー
公式サイト:https://klockworx.com/movies/17897/
© 2022 - Unité - Les films du Worso
記:林田久美子 2024 / 04 / 10
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