シネマピア
【映画レビュー】ヒットマン
"偽の殺し屋"に扮したおとり捜査官が、依頼人との不適切な関係に陥る......?! アカデミー賞5回ノミネート、ゴールデングローブ賞2回受賞、英国アカデミー賞2回受賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞2回受賞の名匠リチャード・リンクレイター監督による待望の最新作は、『トップガン:マーヴェリック』(22)で異彩を放った俳優グレン・パウエルが主演のみならず監督との共同脚本にも参画。米批評サイト「ロッテントマト」では堂々の98%を叩きだした、映画業界内でも話題沸騰の、実話ベースのクライム・コメディ!
ニューオーリンズの大学で哲学と心理学を教えるゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)。冴えない風貌のゲイリーだが、裏では依頼殺人の捜査協力として盗撮や盗聴の技術協力に勤しんでいた。そんなある日、おとり捜査で殺し屋役となるはずの警官(オースティン・アメリオ)に代わり、ゲイリー自らが殺し屋に扮する羽目になり......。
ポスターに写る6人の男は同一人物、すなわち グレン・パウエルが演じるゲイリー・ジョンソン。実在の人物だ。パウエルは彼のことが書かれた記事"Hit Man"に着想を得、友人であり共同製作者でもあるリンクレイター監督に映画化を持ちかけた。それが本作の始まりだ。
普段は本文の末尾に言うことが多いこの文言を、もうここで言ってしまおう。「是非、劇場でご覧いただきたい」と。「いただきたい」と控え目に書いたが、気分としては「劇場でご覧いただく"べき"」であり、「本作を観ずして映画好きを名乗ってはいけない」とまで言ってしまいたくもある。 伏線はすべて回収され、笑えるポイントは何度も何度も訪れ、ウィットの効いたセリフ回しの数々、テンポの良さ、表情だけですべてを語る絶妙な演技に呻らされる。それでいてストーリーは込み入っていて先が読めず、どんでん返しは幾度も訪れ、意外な展開にドキドキハラハラもする。 なんだこの映画は。傑作かよ。リンクレイターとパウエルは天才かよ。しかも本作はパウエルの脚本家デビュー作。脚本家として初めての作品がこんなに面白いだなんて、しかもイケメンときたもんだ。天はパウエルに2物も3物も与えている。どゆこと?
これを書いている私はモチロン観終わっている状態なのだが、本作はもう、時間が許す限り何度でも観たい。それくらい大大大大傑作なのだ。
人は皆、多かれ少なかれなりたい自分と実際の自分との間に開きがあるものだろう。本作はコメディであると同時に、自分自身をどう形成して生きていくか、不確実性だらけのこの人生をどう生き抜いていくべきか、そんな深遠なテーマをも示唆している深い作品でもある。
深いがゆえに、そんな建設的なテーマとともに、終盤にはダークな出来事をも盛り込み、ただのコメディではない、ただのハッピーエンドではない、人間の根幹というものを考えさせてくれる作品に仕上がっている。
あなたはこの結末をどう解釈するだろうか。何度でも言おう。是非、劇場でご覧いただきたい。
原案:「テキサス・マンスリー」誌 スキップ・ホランズワースの記事に基づく
監督:リチャード・リンクレイター(『スクール・オブ・ロック』、『6才のボクが、大人になるまで。』)
脚本:リチャード・リンクレイター&グレン・パウエル
出演:グレン・パウエル(『ドリーム』、『トップガン:マーヴェリック』)、アドリア・アルホナ(『モービウス』)、オースティン・アメリオ(TVシリーズ「ウォーキング・デッド」)、レタ、サンジャイ・ラオ
配給:KADOKAWA
公開:9月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト:https://hit-man-movie.jp/
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記:林田久美子 2024 / 07 / 10
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