シネマピア
モールス
スウェーデンのベストセラー小説を原作とした『ぼくのエリ 200歳の少女』が、タイトルを原作と同名にしてハリウッドリメイクされたのが本作。少女役に『キック・アス』で全世界に多数の熱烈ファンを持つこととなったクロエ・グレース・モレッツ、少年役には『ザ・ロード』のコディ・スミット=マクフィーを迎え、『クローバーフィールド/HAKAISHA 』のマット・リーヴス監督が独特の感性でその世界を作り上げる。
雪深い田舎町で母親と二人で暮らし、学校では虐められている少年、オーウェン。ある日、隣の部屋に越してきたアビーという少女は、冷たい雪の上でも裸足で歩き、自分の誕生日も知らない不思議な女の子。次第に惹かれあう二人は、壁越しのモールス信号で交信をし、心を近づけていく。だがそのころ、町では不可解な猟奇殺人事件が頻発するようになり……。
元のスウェーデン版が純白の雪のような、童話のような純粋さ、身を切られるような美しさが全編に漂っていたのに対し、本作ではその雪に少しばかりの土が混じり、より現実感が増し、また表現もハリウッドナイズドされてマイルドになったような印象を受ける。
小説のほうの原作では、実はエリは去勢されてしまった元少年であり、スウェーデン実写版でもそうした描写がほんの少しあったのだが、本作でのアビーはまったくの少女。アビー役のクロエはもちろん抜群の演技力なのだが、オーウェンよりも少し……否、かなり背が高い。このころの年代は同じ年でも女の子のほうが大きいということはままあるだろうが、オーウェンの弱々しさも相まって、どこかアビーが年上のお姉さんのように見えてしまう。
本当のアビーは少女ではなくとんでもなく年をとったオバハンだからそれでもいいのかもしれないが、スウェーデン版は同じような背丈で互いが対等の関係のように見えたので、この点はどうしても気になってしまった。
ハリウッド製作なのだから、当然VFXもそれなりの仕上がりになっているかと思いきや、監督は予算の配分を間違えてしまったのか? 吸血シーンのそれは前時代を思わせるカクカクカクカクとした動きで興ざめしてしまった。これならスウェーデン版のほうがよほどリアリティに溢れている。事故シーンとラストの某物体のアップだけは、さすがハリウッドと思わせる仕上がりだったが。
少年が少女を招き入れるシーンでは、スウェーデン版では辛辣な言葉と仕草、表情が胸に突き刺さるほどでかなり印象的だったのに対し、本作では棘がそがれた表現に落ち着いてしまっていたのも残念だ。
……と、本国版と比べたら、ストーリーはほぼ同じでも、テイストはかなり違う仕上がりになっている本作。本国版を好きな方が観たら肩を落としてしまうかもしれないが、これはこれとして観るなら、申し分なく楽しめるスリラー。あのスティーヴン・キングが2010年のベスト映画No.1に選び、「この20年のアメリカでナンバーワンのスリラー」と語っているくらいの傑作なのだから。
我々だって他の生物を捕食しながら生きている。食料となるものが野菜やら肉やらなのか、すごい偏食で人間の血しか受け付けられないのかの違いだ。また、命を奪わずとも、誰もが誰かを知らぬうちに傷つけながら生きている。血がなければ生きていけないという言わば“病気”を苦に死の道を選ぶか、それとも“病気”とともに生き続けるか。様々な矛盾とともに生きるしかない、“現実”というこの世界を考えさせられる一本。
原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督:マット・リーヴス
脚本:マット・リーヴス
出演:クロエ・グレース・モレッツ/コディ・スミット=マクフィー/リチャード・ジェンキンス/イライアス・コティーズ
配給:アスミック・エース © 2010 Hammer Let Me In Production.LLC
公開:8月5日(金)、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
公式HP:http://morse-movie.com/
©Fish Head Productions, LLC All Rights Reserved.
Tweet |