シネマピア
アクシデント
冷たくもなく温かくもなく、まるで画集をめくるかのように淡々と進んでいく極上のサスペンス。ニュー香港ノワールの巨匠とも称されるジョニー・トー(『エグザイル/絆』)製作により、秋の夜長にふさわしい魅惑の作品が誕生した。
喧噪の街中での突然の事故に遭遇し、予想だにしない死を迎える市民。
そう、確かにそれは事故以外の何ものにも見えない。だがそれは偶然などではなく、プロの殺し屋グループによって仕組まれた殺人だった。いつものように仕事をこなしていく日常のなか、とある“偶然”から仲間が命を落とす。それは本当に偶然なのか? それとも……?
香港映画にありがちな派手で非現実的なアクションは皆無である。ではその“事故”が現実に起きそうなものかどうかというと、一歩間違えば失敗してしまうかもしれない、かなり際どい成功率の“事故”だ。
そこを成功させてしまうのがプロなのだろうが、それが現実に起こりそうに思えてしまうのは、この淡々として決して派手ではない独特の空気感によるものだろう。
原題は『ACCIDENT/意外』。その名のとおり、結末はまったく意外なもの。テレパシーなどない普通の人間は相手の心など読めるはずもなく、だからこそ真実を、本心を知るためにあらゆる手を尽くし、躍起になる。
だが、ロールシャッハ・テストで同じ画像が見る人によってまったく違うものに見えてしまうように、たった少しでも思い込みがあれば、同じ事象を見てもまったく違った答えを導き出してしまう。
自分の勘を信じるか、それとも自分を過信せずただただ真実を追い求めるという謙虚な姿勢を保ち続けられるか。自分の心の立ち位置がほんの少し違うだけで、こうも真逆の結果が引き寄せられてしまうのだ……もっとも、それは無意識下で主人公が望んでいたことを引き寄せただけかもしれないのだが。
紅一点のミシェル・イエは本作で、香港のアカデミー賞的位置付けである香港電影金像奨最優秀助演女優賞を受賞。言葉少なに表情だけですべてを語るルイス・クーのメガネ美男子っぷりに釘付けになる女子も多いだろう(私もそのひとりだが)。
この救いのない、また逆に救いそのものであるかのような結末は、すべての事象は表裏一体であるという、この世の真実を示しているかのようだ。
製作:ジョニー・トー
監督:ソイ・チェン
脚本:ゼトー・カムユエン/ニコル・タン/ミルキーウェイ創作組
出演:ルイス・クー/リッチー・レン/ミシェル・イエ/フォン・ツイファン/ラム・シュー
配給:ブロードメディア・スタジオ
公開:10月8日(土)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
公式HP: www.accident-igai.net
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