シネマピア
サラの鍵
第23回東京国際映画祭監督賞、観客賞をダブル受賞した本作。原作は、ノーベル平和賞を受賞した中国人作家・ 劉暁波氏も獄中で読んだ本として話題となった、全世界300万部突破のベストセラー小説。自らもドイツ系ユダヤ人の祖父が収容所で亡くなったという若手新鋭監督ジル・パケ=ブレネールが、綿密なリサーチに基づいた緊迫の映像でユダヤ人迫害の真実に迫りながらも、今を生きる人々の物語として描いている。
1942年、ナチス占領下のパリで行なわれたユダヤ人迫害。それから60年後、ジャーナリストのジュリアは、アウシュビッツに送られた家族について取材するうちに、収容所から逃亡した少女サラについての秘密を知る。サラが自分の弟を守ろうと、納戸に鍵をかけて弟を隠したこと。そして、そのアパートは現在のジュリアのアパートだったこと。時を超え、明らかになった悲しい真実がジュリアの運命を変えていく――。
1942年からのサラの少女時代と、2009年からのジュリアの取材と私生活が交互に描かれている。このふたつのストーリーが描かれていることによって、単に戦争が残した残酷さという歴史映画ではなく、命のつながりや現代でも残っている問題など、これから私たちが伝えていかなくてはならない平和へ向けてのメッセージが描かれている。
ユダヤ人を収容した室内競輪場のシーンは、人をモノとしてしか扱っていない。両親とは別の収容所に送られるサラは、そこから弟を助けるため必死に脱走する。警察から逃げる彼女をユダヤ人ということで初めは拒絶するも、助けるフランス人夫婦。私たちは何か事件があるとその国をひとつと考えてしまいがちだが、同じ国でも考え方や平和への思いはさまざまであることを再認識せられる。次第に心を寄せ合うフランス人夫婦とサラの関係は人が本来持ち合わせている心なのだろう。
サラの消息を追う記者のジュリアが、不妊治療を行なって高齢で妊娠をする。しかし、時が経ってしまったせいか夫の賛成が得られない。彼女は、なにか答えを探すかのように取材に没頭する。そしてユダヤ人だった過去を消し、別人としてアメリカで生活を送ったサラの情報をつかむことに。彼女はそのことをサラの息子ウィリアムに話す。最初は母親の過去を受け入れられず彼女を追いやるが、事実と向きあった時に彼はジュリアを訪ねることに……。ラストのジュリアとウィリアムのシーンに歴史のつながり、命のつながり、人と人のつながり、未来に向けての希望を感じることだろう。
過去の誤りと向き合うことや歴史を知ることがどれだけ大切なことか、ジャーナリズム本来の役目というものを考えさせられる作品である。
★ジル・パケ=プレネール(監督/脚本)
監督、脚本家。1974年、フランス・パリ生まれ。
処女作は01年に公開され、批評家からも観客からも注目を浴びたマリオン・コティヤール主演『美しい妹 』(本邦未公開)。
『スタジオ・マガジン』誌は“生まれついての作家”と称し、『プレミア』誌は“独創的な映像処理を施した、自己発見を描く重厚な脚本”と述べ、多くの賞を獲得した。
その2年後、大衆を惹きつけた『マルセイユ・ヴァイス 』(03年)を発表。10代のころに好きだった映画やTV番組に賛辞を贈ったこの アクションコメディは大ヒットを記録し、5年後に続編が製作された。3本目の映画『UV―プールサイド― 』(07年・本邦未公開)は、60年代初期のフランス・イタリア映画に影響を受けた息詰まるほどの心理サスペンス。『レクスプレス』誌や『エル』誌から称賛を受け、多くの観客を魅了した。
自らドイツ系のユダヤ人祖父が収容所で亡くなったという記憶を持つ、37歳の若手新鋭監督。本作への思い入れは強い。「1995年、フランス国家がユダヤ人迫害に加担していたという事実をシラク大統領が演説で明らかにし、国民は衝撃を受けたんだ。それは一体どのように行なわれたのか、そのことを深く考えてほしい。これは現代にも通じる問題なんだ」と語る。
原作:タチアナ・ド・ロネ『サラの鍵 』(新潮クレスト・ブックス刊)
監督・脚本:ジル・パケ=ブレネール
脚本:キム・フォップス・オーカソン
出演:クリスティン・スコット・トーマス/メリュジーヌ・マヤンス/エイダン・クイン
配給:ギャガ
公開:12月17日(土)より銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
公式HP:http://www.sara.gaga.ne.jp/
©2010 - Hugo Productions - Studio 37 - TF1 Droits Audiovisuel - France2 Cinéma
Tweet |
エンタメ : シネマピア 記:尾崎 康元(asobist編集部) 2011 / 12 / 13