シネマピア
月光ノ仮面
古典落語「粗忽長屋」を骨子に据え、月の魔力に惑わされた人々の悲喜を絡めて作り出されたシュールな板尾ワールド。モントリオール映画祭への出品も果たした一癖も二癖もある本作だが、果たして本国日本ではどう評価が下されるだろうか。
敗戦後の昭和22年の日本、綺麗な満月の夜。ボロボロの軍服に身を包み、顔中に包帯を巻いた男(板尾創路)が町に足を踏み入れる。笑いがこぼれる寄席小屋へふらふらと引き寄せられた男は、そのまま高座へと上がってしまい……。
『板尾創路の脱獄王 』以来二作目となる板尾監督作だが……板尾作の映画は「シュール」と評される。シュルレアリスム=超現実主義からの日本造語だ。だが、何の前知識もなく本作を鑑賞した場合、超現実的というよりは非現実的なその世界観に驚く鑑賞者はたくさん出てくるだろう。
「月の魔力に惑わされた」云々の設定は、そう知ってから観ればそう見えるのだろうが、まったく知らない状態で観たならば、月の影響というのはあまり感じられない。強いていえば、随所において月がまるで飾り物のように異様に大きいことくらいか。
浅野忠信の起用もそうだ。監督はきっとそれが狙いなのだろうが、かなり無理がある。これがもし山田孝之だったなら、観客への説得力は相当増しただろう。
会話をまったくしない主人公というのも不自然といえば不自然だが、そんな箇所を挙げたらきりがない。この不自然さこそが本作の持ち味と解釈すべきなのだろう。
人気者に癒され、そして憧れるも、自分にはその才能がなかったために残念ながらなれなかった男の末路。ラストのあの行為はその自分の夢を実現するための行為だったのか。それとも戦争により心を病んだ、または戦争以前に精神に異常をきたしていた男の奇行なのか。
ストーリーはとてもいいので、もしかすると小説版 のほうが楽しめるのかもしれない。または、映画で観客に様々な疑問を与え、書籍売上へと繋げる作戦だろうか。とにもかくにも、鑑賞後にもずっとその意味を考え続けてしまう、あとを引く作品である。
監督:板尾創路
脚本:板尾創路、増本庄一郎
出演:板尾創路/浅野忠信/石原さとみ/前田吟/國村隼/六角精児/津田寛治/根岸季衣/平田満/木村祐一/宮迫博之
配給:角川映画
公開:1月14日(土) 角川シネマ有楽町、シアターN渋谷他全国ロードショー
公式HP:gekkonokamen.com
©2011「月光ノ仮面」製作委員会
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