シネマピア
グッド・ドクター 禁断のカルテ
『ロード・オブ・ザ・リング 』、『パイレーツ・オブ・カリビアン 』シリーズで好感度を上げたオーリー様ことオーランド・ブルームが、本作ではこれまでのイメージとは真逆の犯人役に挑戦。しかも主役を演ずるのみならず、脚本に惚れ込んでプロデューサーとしても名乗りを上げた快作。肩書とは裏腹の脆い精神を持つ新米医師の狂気を、大胆かつ繊細な演技で魅せつける。
研修医として働く若き内科医師、マーティン・ブレイク(オーランド・ブルーム)。自分を良く見せようと上司や同僚にアプローチするが上手くいかず、おまけにベテラン看護師からのイジメで精神的にも参る日々。そんな折、18歳の少女が腎臓の感染症で入院してくる。自分に全幅の信頼を寄せる彼女に惹かれ始めるマーティンだったが、病気が治った彼女は退院し、自分のもとから去ってしまう。なんとかして彼女を取り戻そうとしてマーティンが取った行動とは......。
"良医"を演じるために七三ならぬ一九分けの髪型で役に扮するオーランド。外見重視のファンたちからは賛否両論ありそうだが、これはこれで役者魂を感じるし、何よりオーランドの顔立ちはイケメンだから、こんな髪型であってもなかなかサマになって見える。
この研修医が住む家は、海辺に建ついかにも高級そうなアパートメント。一人で住むには広すぎるその部屋は清潔感に溢れデザインセンスもピカイチだが、持ち物も家具も殆どなく、買ったばかりの新品のステレオが静かな音楽を奏でるだけ。無論、友だちがいる気配も皆無で、豪華なキッチンでは出来あわせのコンビニ食をレンジでチンして食するのみ。
まるで彼の人生や精神を象徴するかのようなこの部屋のディテールを初めとして、各所に積み重ねられるこうした描写が彼自身を如実に表しており、観ているこちら側をも切ない気分にさせてしまう。脚本・俳優・監督の三位一体となった手腕は見事だ。
「人は一人では生きていけない」とよく言われるが、「他者からの評価」だけが自己のアイデンティティとなったとき、やはりその人の人生は崩壊の道を辿る。
中途半端な計画性の犯罪と、落ち度に気づいて挽回しようとさらに悪事を重ねる主人公。本作は完全犯罪モノではなく、また、犯罪志向者、いわゆるサイコを描いた作品でもない。人生に取り立てて楽しみもない人間。自分を支えてくれる友だちも家族も近くにいないから、職場の人間関係が人生のすべてかのように作用してしまう人間。エリートに......否、「いい人」になりたかった人間。そうした人間が、ちょっとしたはずみでドミノを倒すように転落していってしまう悲劇を描いた作品なのだ。
個人的には、ラストの少し手前で終わってくれたほうがスッキリしたのに......とも感じたが、逆にラストをああすることで、観客に地団駄を踏ませ、戦慄を与えることに成功しているのだろう。誰の心にも多かれ少なかれ潜むであろう狂気。それを見事に表現しきった傑作だ。
監督:ランス・デイリー
脚本:ジョン・エンボム
出演:オーランド・ブルーム/ライリー・キーオ/マイケル・ペーニャ/J・K・シモンズ/タラジ・P・ヘンソン
配給:日活
公開:1月21日(土)、銀座シネパトス他 全国順次ロードショー
公式HP:www.good-dr.com
©2010 Tesuco Holdings Limited. All Rights Reserved.
Tweet |