シネマピア
戦火の馬
スティーブン・スピルバーグ監督が、イギリスの舞台劇『ウォー・ホース』に出会ってから、わずか7カ月で映画撮影を始めるほどに原作に惚れ込んで作り上げられた本作。敵も味方も国境もない一頭の馬を通して、戦争に翻弄される人間たちの姿が描かれる。
第一次世界大戦前夜、イギリス。とある小さな村の牧場に一頭の仔馬が産み落とされた。その誕生の瞬間を遠くから目にしていた少年アルバートは、一目でその仔馬の虜となった。やがて成長した馬は村の馬市でセリにかけられ、貧しい農夫のもとに渡った。その農夫とはアルバートの父に他ならず、かくして馬とアルバートは再会を果たすが……。
本作は、それぞれ別の人生を送るそれぞれの人々のドラマから成る。戦争に駆り出された馬が行く先々で目にする様々な出来事……戦争で引き裂かれる絆、失われる命、奪われる大切なもの、それでも無くならなりはしない人間の奥底の暖かさ……そうしたものがそれぞれの角度から語られる。
戦時中が舞台とは言え、戦争もので必ず描かれる残虐シーンは一切登場しない。確かに戦闘シーンや人が死ぬシーンがあることはあるが、細部を描写してはいないのでお子様連れで行かれてもなんら心配はないだろう。
原作が児童文学だからか、またほとんどCGを使わずに撮影された大自然の雄大さからか、絵本を1頁ずつ丁寧に捲っていくような優しい作風だ。ただ少しばかり脚本が説明不足かと思われる箇所もあり、またジョン・ウィリアムズの曲がよくいえば古き良き時代を彷彿とさせているが、悪くいえば若干古めかしさを漂わせている(狙って作っているのだろうが)。だがクールなはずのこの私がついうっかり何度か泣いてしまったくらいなのだから、アカデミー賞の作品賞にノミネートされたというのも頷ける。
『ヒューゴの不思議な発明』、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』等、少年を主人公とした作品が他にも目立っている今年前半。その中でも、物言わぬ動物の目線を通して語られる本作は多くの観客の心を打つことだろう。
スピルバーグは『シンドラーのリスト 』以来2度目のオスカーを本作で取れるだろうか。大いに注目したいところである。
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:リー・ホール/リチャード・カーティス
出演:エミリー・ワトソン/デヴィッド・シューリス/ピーター・ミュラン/ニエル・アレストリュプ/ジェレミー・アーヴァイン
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
公開:3月2日(金)全国ロードショー
公式HP:http://disney-studio.jp/movies/warhorse/
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