シネマピア
TIME
「時は金なり」ならぬ、「時は命なり」……すべての人間の成長が25歳でストップする近未来。お金ではなく“時間”が唯一の“通貨”となった世界を舞台に、あのSF名作『ガタカ 』の監督が描くアクション・サスペンス。
余命平均23時間というスラム・ゾーンに住む青年ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)。文字通り、その日の寿命を延ばす“日銭”を稼ぐため、来る日も来る日も単純労働に明け暮れていた。一方、富裕ゾーンの住人であるハミルトン(マット・ボマー)は終わりのない人生に嫌気が差し、116年という莫大な時間をウェルに譲り渡すが……。
「貧乏暇なし」とはよく言ったもので、人間社会のヒエラルキーの下辺にいる多くの人は金銭を求めればそのために労働せざるを得ず、結果、時間を失くしてしまう。逆に時間を得たいと思えば働かないのがいちばんなのだが、当然、お金は消えていくばかり。時間もお金もあるのは親の土地や財産を受け継ぐなどして最初から不労所得を得られる立場にある人であり、こればっかりは生まれた星を妬んでも恨んでも引っくり返ることはない。
本作ではその「お金」が「時間」に置き換えられ、そして現実世界を象徴するかのように貧富層と貧民層が区分けされている。この二つの層を分ける「壁」は厳重なセキュリティにガードされた幾重ものエリアで構成されている。現実世界にはそうした目に見える「壁」はないが、いわゆる労働階級から土地成金になるのがかなり困難なように、その壁は我々の現実世界にも確実に存在する。
そんなリアルを映しだしたかのようなこの本作では、貧富の差が如実に描かれ、そしてそれを奪回すべく主人公たちが奔走する。弱者が困窮していようとも冷徹なやり方で時間を独占支配する富豪の姿は、今も苦しむ被災者たちを尻目に莫大な退職金をまんまとせしめた某電力会社元社長をも想起させる。
スクリーンに登場する全員が全員25歳という設定なので、娘・母・祖母が揃ってうら若き乙女であるなど、ディテールは秀逸(実年齢36歳のキリアン・マーフィをも25歳で通すのは少し無理があるが)。だが、時間の受け渡し方法があれでは、セキュリティとしてどうだろう? 紙幣を折らずに尻ポケットに突っこんで歩いているようなもので、ちょっと腕力さえあれば簡単に盗めてしまう。せめてパスワードなり暗証番号なりがあれば、もっと説得力が増しただろうに。
また、命を左右する大切な時間のはずなのに、その管理をかなりルーズにしているキャラクターが複数いることも解せない。そのルーズさがストーリー展開の肝ともなっているから、それを言っちゃーおしめぇなのだろうが、設定が素晴らしかっただけにその点は悔やまれてならない。
もっともその設定も、「盗作だ」としてSF作家のハーラン・エリスンが本作の公開中止を求めていたが……。
労働と死が直結しているスラムゾーンにもし我々が生きていたら、リラックスしながら日々を送ることなど決してできないだろう。それならば、そんな小細工をせずとも各人に定められた寿命を全うする日々、寿命を延ばしたければ健康生活に邁進する日々、他人の命(時間)を欲しいと思わずにいられるこの現実世界のほうが、よほど幸せな人生を送れると言えるだろう。
監督・脚本・製作:アンドリュー・ニコル
出演:ジャスティン・ティンバーレイク/アマンダ・セイフライド/オリヴィア・ワイルド/キリアン・マーフィ
配給:20世紀フォックス映画
公開:2月17日、TOHOシネマズ 日劇他にて全国ロードショー
公式HP:http://www.foxmovies.jp/time/
©2011 Twentieth Century Fox Film Corporation
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