シネマピア
ベルフラワー
『マッドマックス2 』の悪の首謀者ヒューマンガスに憧れ、世界破滅の日を待ち望むニート男子の恋物語。独学で映画を学び、全財産をはたいて本作を作ったエヴァン・グローデルは、低予算という理由もあり、このインディーズデビュー作で監督と主演を同時にこなした。そしてニッチ層にしかウケないと思われたこのマニアックなテーマで、逆に全世界の男性諸氏に眠るオトコノコ心を鷲掴みにし、サンダンス他の各映画祭で絶大なる支持を受けたのだ。
定職も持たず、朝っぱらからビールを飲むダメダメ生活をおくるウッドロー(エヴァン・グローデル)とエイデン(タイラー・ドーソン)は親友同士。二人の日課はといえば、ガレージで火炎放射器を作ったり、プロパンボンベをショットガンで爆発させたりといった遊びばかり。ある夜、ウッドローはバーでのコオロギ早食い競争をきっかけに、初めての恋に落ちるが……。
ウッドローの人生を滅茶苦茶にする女、ミリーだが、これがとてつもなく憎たらしい。顔もさほどではないし、体系だってポッチャリの円錐形だし、おまけに性格も最悪。そんな女に振り回されるも最後まで惚れ込んでしまうあたり、これも中二病のなせる業なのだろう。ミリーの親友のコートニーのほうが100倍可愛いのにそっちになびかないのは、恐るべし共依存ともいうべきか。
恋が中軸かと思いきや、それよりも深く位置する重心として描かれているのが、男同士の友情。あの顛末は、久々に胸が張り裂けんばかりだった。
劇中に登場する車、メデューサ号は、オトコノコ心を釘付けにする目玉アイテム。火炎放射器、煙幕、偵察カメラ等々が装備された改造車だが、これらは飾りではなく実際に機能するもの。しかも(たぶん金がないからだろうが)監督はこの車を普段も自家用車として使用。これでスーパーに買い物へも行くそうだ。
主役のメル・ギブソンのほうではなく、ワルモノ番長ヒューマンガスのほうを神と崇めるニート二人。そのイカレた世界観を、自らの実体験をもとに監督が描き上げた、私小説ならぬ私映画ともいうべき自伝的映画。私小説といえば、日本では西村賢太が『苦役列車 』で芥川賞を受賞。夢叶わずに底辺で這いつくばる人間たちのその悲しさは、テンプレどおりで現実味のないハリウッド成功物語よりも人々の心を打ち、突き刺さり、そして共鳴する。
「女は観るな」などという心無い言葉がネットで見受けられるが、オトコノコを良く知るオンナが観たって、充分に理解・共感しうる。車や火炎放射器に夢中になる生き物って、女から見たらたまらなく可愛いのだ。
監督・脚本:エヴァン・グローデル
出演:エヴァン・グローデル/ジェシー・ワイズマン/タイラー・ドーソン/レベッカ・ブランデス
配給:キングレコード/ビーズインターナショナル/日本出版販売
公開:6月16日(土)、シアターN渋谷にて爆炎ロードショー
公式HP:http://bellflower-jp.com/
©2011 Bellflowerthemovie, LLC
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