シネマピア
フライト
急降下する飛行機を見事な手腕で緊急着陸させ、墜落の窮地から救った機長。英雄として語り継がれるべき彼に、とある疑惑が浮上する……。監督は12年ぶりに実写に挑むロバート・ゼメキス、主演は2度のオスカーに輝いたデンゼル・ワシントンという豪華コンビが贈る、まさに「本物の」ドラマだ。
アトランタ行きの旅客機を操縦する機長(デンゼル・ワシントン)。実のところ、前夜のお遊びが過ぎてかなりの睡眠不足なのだが、そんな素振りは微塵も見せず、悪天候の中でも抜群の操縦テクニックを披露する。だが、突然機体は急降下し、制御不能に陥る。絶体絶命かと思われた矢先、持ち前のテクニックで不時着に成功するが……。
本作は飛行機の操縦テクニックを見せつけるアクションではなく、「真の正義」をテーマとしたヒューマン・ドラマだ。機長と同様の悩みを持たずとも、目の前の現実すべてを事実どおりに解釈して受け入れることは、聖人君子でない限りなかなか困難なことだろう。そうした悩みや欠点に苦しみ、改善したくて誰かに相談するタイプや、また逆にそんなネガティブな要因は見なかったことにし、自分を誤魔化し、平静を装って「何の問題もない自分」を他人に対しても自分に対しても演じるタイプがいる。機長は後者だ。本作は、そうした誰もが持つ「本当の自分と向き合いたくない心」をグリグリと抉ってくる。「偽物の機長」が血や肉とともに少しずつ少しずつ削ぎ落とされ、中から「本物の機長」が現れたとき、観客は文字どおり“心が洗われる”感覚を覚えることだろう。機長と自分の姿とを重ねて。
ドラマが軸ではあるが、不時着回避時の機内のパニックの様子や、度胆を抜くリアル感もまた見ものだ。また、「オーシャンズ」シリーズや「アイアンマン」シリーズでのドン・チードルや、『アルゴ』、『アーティスト』のジョン・グッドマンらの実力派俳優が惜しげもなく脇を固めている。
ここ最近はもっぱら善人で人格者の役ばかりだったデンゼルだが、本作ではまったく逆の悪い悪い人を演じる。さながら『トレーニング・デイ』をも連想させるそのギャップにガツンとやられたのか、全米の批評家の9割以上が絶賛し、本年度アカデミー賞最有力との呼び声も高い。賞の結果をぜひ期待したいところだ。
監督・製作:ロバート・ゼメキス(『ポーラー・エクスプレス』、『フォレスト・ガンプ 一期一会』)
脚本:ジョン・ゲイテンズ
出演:デンゼル・ワシントン/ドン・チードル/ケリー・ライリー/ジョン・グッドマン/ブルース・グリーンウッド
公開:2013年3月1日(金)、丸の内ピカデリーほか全国公開
公式HP:http://www.flight-movie.jp/
©2012 Paramount Pictures. All Rights reserved.
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